実技オリエンテーション:探索トライアル
最後のオリエンテーションの探索トライアルとなった。
探索トライアルは水晶学園に隣接する森で行われるわ。
マップを見て塔まで辿り着くだけの地図の見かたを覚えるチュートリアルイベントで、探索トライアル自体にはテストとしての意味はほぼない。
完全な体験授業というか、ゲームの『リルティア王国物語』では選択肢で攻略キャラを選んで主人公のマリエルがウィリアム王子以外の攻略キャラと初めての出会いをするイベントとなるはずだったんだけど、製作上のごたつきでこのイベントは2年生のイベントにスキップされてしまったのよ。
おまけに2年生で開催されるこのイベントは
まあ、このイベントが1年生でキャンセルされたのは主人公のマリエルだけの話で、攻略キャラやアイビス《わたし》は普通に1年目にこのイベントに参加してたと思うの。
王子にメンバーを探すように言われていた担任が生徒を連れてやって来たんだけど、その生徒を見てわたしはギョッとした。
「マ、マリエルじゃない!」
補充のメンバーとして現れたのは主人公のマリエルとビリーくんだったのだ。
わたしが
「知り合いか?」
「いえ……」
まさか補充のメンバーとしてマリエルが現れるとは……油断した。
こんな所でマリエルと王子の縁が持たれるとは……。
これこそが神の見えざる手。
ゲームシナリオの原作者のご都合主義という神の力が働いたとしか思えない。
二人を連れて来た担任はビリーくんとマリエルを紹介する。
「下級貴族クラスにしか余っている生徒が居なかったので、この二人で我慢してくれ」
下級貴族クラスの生徒と言えど、生徒を余りものの様に扱う担任はちょっと酷いと思った。
ビリーくんもグループを組むのが王族のウィリアム王子とチャールズ王子と聞いて緊張しているのか、へりくだりつつ自己紹介をする。
「下級貴族クラスのビリーと申します。グループメンバーを探してると聞きましてやって来たのですが、上級貴族クラスの王子様たちでありましたか……。足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」
マリエルも王族相手で緊張しているのか、「マリエルです。よろしくお願いします」と言って頭を下げただけだった。
リルティア内のイベントCGでは散々見たマリエルだけど、凄く清楚な見た目で凄く可愛いわね。
散々リルティアで操作したキャラなのでわたしの半身みたいなものよ。
ウィリアム王子が一目惚れするのもなんとなくわかるわ。
王子が自己紹介を返す。
「第一王子のウィリアムだ。よろしく」
「第二王子のチャールズだ。よろしくな」
わたしもアイも挨拶をする。
「アイビスです。よろしくお願いします。ビリーくん。久しぶりです」
「アイビス様の第一のしもべアイ。アイビス様に無礼を働いたら許さない」
そういってマリエルに
わたしは猛犬をなだめるべく、アイを後ろに下がらせた。
アイの挨拶はちょっと失礼だったけど、ビリーくんは気にしていないようだ。
「久しぶりです。アイビス様、アイ様」
ビリーくんの挨拶に、浮気相手かと思って過剰な反応をするウィリアム王子。
「こいつは知り合いか? 浮気相手じゃないよな?」
「わたしの領地に住む家臣みたいな人で、大商人の息子よ。以前に勉強を少し教えて貰っただけの関係よ」
「そうか、ならいい」
浮気相手を警戒して神経を尖らせているウィリアム王子とは反対に、チャールズ王子は能天気だ。
早速、ペアメンバー分けの提案を始める。
「それじゃ、俺はアイと組むから、あとはテキトーによろしく」
でもアイは拒否。
「アイはアイビス様としか組まない」
チャールズ王子は涙目だ。
「マジか? じゃあ、俺はマリエルだっけ? この子と組むわ」
え? 噓!
マリエルと組むの?
このままじゃ、チャールズ王子とマリエルの好感度が爆上がりして、カップリングが成立してしまうのでは?
それだけは阻止しないと。
わたしは必死に考えを巡らせる。
チャールズ王子とマリエルが組むと、わたしに待っている未来はその場で切り捨ての断罪ルート。
これは選んではいけないルートよ。
逆にウィリアム王子とマリエルが組めば、断頭台での首ちょんぱルートとお家取り潰しが待っているのでこれは一番進んではいけないルートだわね。
これは絶対に避けるべきヤバいルートだわ。
それならばビリーくんとマリエルをカップリングさせて、鉱山送りになるルートを選ぶのが正解だわね。
鉱山送りなら辛い労働が待ってるけど即死んじゃう描写は無いから、寿命まで生きられるかもしれないし。
わたしは炭鉱ルートに進むべく、マリエルとビリーくんをカップリングさせる。
「チャールズ王子?」
「ん? 俺と組みたいのか?」
「愛するアイの前で初対面の女の人との浮気なんて見せていいのですか? アイに捨てられてしまいますよ」
「マジか? こんなことで浮気になるのかよ? じゃあアイビス、お前となら知った仲だ。俺と組もう」
ウィリアム王子が一瞬見せた刃物で刺し貫くような視線が痛い。
それを聞いたアイはわたしの腕に
「アイはアイビス様のモノ。アイとアイビス様と組むのは確定的で運命的な避けられない事象」
わたしも全力で拒否だ。
「愛するウィリアム王子の前でチャールズ王子と組むなんて嫌です」
「じゃあ、俺は誰と組めばいいんだー!」
嘆くチャールズ王子を見て、ウィリアム王子が折衷案を出して来た。
「俺はアイビスと組みたいところだけど、アイがアイビス以外と組みたくないらしいので、俺はチャールズと組む。それならいいだろ?」
「兄貴と組めるのか~」
チャールズ王子は兄貴と慕うウィリアム王子と組めてちょっと嬉しそうだった。
「アイビスはアイ、ビリーはマリエルと組んでくれ。それでペア分けはいいな」
と、言うことでペア分け問題は解決した。
さすが帝王学を学んだ交渉上手の王子、本当はわたしと組みたいのを我慢してチャールズ王子と組んだのね。
あとで癒してあげないとね。
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