実技オリエンテーション:剣技

 次の実技オリエンテーションはコロシアムでの剣技の試験だわ。


 王国騎士団から派遣された騎士とコロシアムの4か所で模擬刀での打ち合いをすることになるの。


 やはり現役の騎士団の騎士さんの実力は新入生たちに比べると遥かに高く、打ち合いをしても数撃食らうだけで討ち伏せられて30秒ももつ生徒はいないわ。


 魔法の試験と同じく、最後にわたしたちのグループの順番が回って来た。


 剣技に自信のあるチャールズ王子とアイは自信満々でやたらテンションが上がってる。


 テンションアゲアゲってやつね。


 チャールズ王子はいつもの如くアイに勝負を挑んでいる。


「そんじゃ、一緒に飛び込んで騎士を多く倒した方が勝ちにするか? それだと、あっという間に討ち倒して勝負ならなそうだから、場外の一番遠くに吹っ飛ばした方を勝ちにしようか?」


「アイはどんな条件でも負けない!」


 物騒な発言が聞こえたのか相手の騎士団の人が怯えてるじゃないの……。


「今日はそういうことをする大会じゃないんだから、勝負は武闘会まで取っておきなさい」


 ということで普通に先生の指示通り試験を受けてくれるようになったんだけど、二人とも剣を軽く一太刀振るだけで騎士さんの模擬刀を吹っ飛ばしてしまい一瞬で勝負が付いていた。


 アイやチャールズ王子ならトップクラスの成績で試験を終えそるのはわかっていたけど、わたしもウィリアム王子も剣は殆ど使ったことが無いので多分すぐに負けて捨て試合になると思う。


 まあ、学園生活では魔法か剣のどっちかが使えれば十分なので問題なし。


 まずはわたしの試験の番だ。


 ゲームのリルティアでは多少剣の覚えはあったけど、リアルで剣を振ったことはないのよね。


 わたしは剣を構えて突進するが、騎士さんはひょいひょいとウサギの様に飛び跳ねて避ける。


「そうですぞ、お嬢様! そのように鋭い切込みで攻撃をするんです」


 完全に子ども扱いで舐められてるわね。


 それなら……。


 わたしは風の呪文の『突撃』を無詠唱で唱える。


 わたしの身体能力が向上して素早く動けるようになった。


 でも、騎士さんはわたしが魔法を使ったことに気が付いていないから、すぐには能力を使わない。


 今まで通りの動きで突進する。


 すると騎士さんは今まで通りギリギリのところで避けてるけど、これって完全に舐めプレイでもっと早い段階で避けられるわよね。


 まあ、ウィリアム王子の妃候補のわたしに手心を加えているんだろうけど、精々舐めプをしておきなさいよ。


 騎士さんがギリギリで避けた演技をしたところで、能力を発動。


 わたしが避けたばかりの騎士さんの足元をすくうと面白いように転げたので模擬刀の切っ先を突き付けた。


「勝負あり、勝者! アイビス・コールディア」


 審判の先生の判定が下った。


 コロシアムから降りると、アイが抱きついて来る。


「さすがアイビス様、王国騎士も歯が立ちませんね」


 まあ、勝てたのは相手が完全に舐めプをしてたからで、もう一度試合をしたら確実に負けると思うけど、勝ちは勝ち。


 一回限りの栄光を堪能しようと思ったんだけど、ウィリアム王子には全てお見通しだった。


「アイビス、魔法を使ってインチキしたろ」


「舐めプをした相手がいけないんですわ」


「まあ、あれは油断した相手が良くないんだが、ちゃんとした試合ではインチキなんてするなよ」


「もうしないわよ」


 子ども扱いされて腹が立ったから魔法を使ったけど、今は後悔してる。


 *


 最後の試合にウィリアム王子が呼ばれる。


 王子は魔法を使わずに実力を見せてやるといって試合場に入ったけど、剣をまともに使えないウィリアム王子が無様に負けないことを祈るのみ。


 あんまりにも無様な負け方をしたら、グループの空気が悪くなっちゃうからね。


 試験の相手はガレス騎士団長だった。


 ウィリアム王子が負けた時のメンツを保つ為に特別に用意された試験の相手だ。


 というか、負け前程の試合なの?


 そんなことを心配してたんだけど、ウィリアム王子の立ち回りは鋭かった。


 騎士の攻撃を小盾で受け流したと思ったら次の瞬間には踏み込んでいく。


 とても騎士団長相手に出来る立ち回りではない。


 騎士団長もギリギリのところで剣を受け流していて少し焦っていた。


 とんでもない強さにわたしもアイもチャールズ王子も驚きだ。


「兄貴はここまで剣を使えたのかよ……」


「確かに強い。でもアイビス様には勝てない」


 騎士団長も同じ感想らしい。


「引退騎士を講師に剣の練習をしているとの噂を聞いていましたが、まさかここまでの実力だったとは……わたくしも本気を出さないといけませんな」


 ガレス騎士団長はスキルを発動した。


『三連撃!』


『武神!』


 『三連撃』とは文字通り3回攻撃を行えるようになるスキルだ。


 デメリットとしては攻撃力が半分になるので実質的な攻撃力アップは1.5倍にしかならない。


 それをカバーする為に攻撃力倍化の『武神』スキルを使い攻撃力を3倍に上げたのだった。


 攻撃力3倍となった騎士団長は勝ち誇る。


「ウィリアム王子はこの3倍攻撃に耐えられるかな? わたくしの攻撃を盾で受けようものなら場外へと吹っ飛びますぞ!」


 観戦しているチャールズ王子もこのスキルに驚いていた。


「スキルを同時に2つ使えるものなど滅多にいない。模擬刀でも大けがをするぞ! 兄貴、棄権するんだ!」


 でもウィリアム王子は棄権をする気が全く無いようだ。


「俺はこの試合で騎士団長を倒してアイビスに認められるんだ!」


 騎士団長も負ける気はない。


「いくら次期王と言えど、騎士団長が学生如きに倒されたとあっては騎士団の沽券こけんに関わります。わたくしの実力をここまで引き出したということで、ウィリアム王子は今回の試験で最高評価を与えましょう。今すぐ棄権して下され」


 ウィリアム王子はキッパリと切り捨てる。


「愛する女の前で逃げることはしない!」


 愛する女ってわたしのことだよね……。


 こんなに大勢いるとこでそんなことを大声で言うのはやめて……。


 恥ずかしすぎて悶え死ぬわ。


 ウィリアム王子が引かないので、騎士団長も覚悟を決めたようだ。


「では、多少のお怪我はご覚悟下さい」


「望むところだ!」


 騎士団長の攻撃!


 大きく踏み込んで切り込むが、今度はウィリアム王子は飛び退いて受け流しをせずに避けた。


 騎士団長の攻撃にスピードが乗っていたのでギリギリの回避、あと5cmで当たるところだった。


「ぬん!」


 騎士団長は間髪を空けずに攻撃を続ける。


 ウィリアム王子はまたまたギリギリでの避けになった。


 既に騎士団長は勝ちを確信している。


「どうです? 王子、実力の差は明らかです。そろそろ負けを認めて下さい」


「そうか? 次の一撃で決められなければ俺の勝ちだよ」


 王子が減らず口を叩いているようにしか見えなかった騎士団長は再び攻撃をするが、またしてもウィリアム王子に避けられた。


 そして、王子は騎士団長に剣を突き付ける。


「どうだい? もう動けないだろ?」


「くっ!」


 すると、それ以上動けなくなった騎士団長は負けを認めた。


「参りました」


 勝てたけど、なんで騎士団長が負けを認めたのか、試合を見ていた全員が理解できない。


 わたしとウィリアム王子を除いて……。


 わたしは知っていた。


 『三連撃』と『武神』はスタミナ消費の激しい地雷スキルと言うことを。


 ましてや、地雷スキルの同時掛けをするバカなんていない。


 重ね掛けなんてすれば通常の10倍ぐらいのスピードでスタミナを消費し尽くしてあっという間に動けなくなる。


 きっと後にマリエルに剣を教える元騎士団長のランスロットにスタミナ消費の激しい技だと聞いてたんだろうけど、騎士団長相手に攻撃を避けまくるなんて度胸があるわね。


 審判の先生が王子の手を掲げる。


「勝負あり、勝者! ウィリアム王子!」


 王子はコロシアムから戻ってくるとわたしに試合の感想を聞いてくる。


「どうだった? アイビスのために頑張ったんだぞ」


「素晴らし試合だったわ!」


 わたしは王子に抱きついて勝利を称えると、わたしが抱きつくと思ってなかった王子は顔を真っ赤にしててちょっと可愛かったわ。


「ウィリアム王子って剣を使えたのね」


「魔法と学力じゃアイビスには勝てないから、剣技を頑張ってみたんだ」


「かっこよかったわよ」


 素直に褒めてみると王子は更に赤くなって可愛かった。

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