実技オリエンテーション:魔法

 探索トライアルのメンバー不足はウィリアム王子が担任に掛け合ってくれて、他にあぶれている生徒がいないかを調べて貰い、それでもメンバーが足りないなら2年生の先輩たちに参加してもらうと言うことで話がついた。


 さすが、帝王学を修めたウィリアム王子は交渉上手ね。


 面倒になりそうなことを一瞬で解決してくれたのはさすがだわ。


 *


 実習授業のオリエンテーションが始まる。


 まずは実習棟に行っての攻撃魔法の魔力の測定。


 魔法を使えるか使えないか。


 標的まで攻撃魔法が届くか届かないか。


 標的を破壊できるか出来ないか。


 この結果をもって、魔法の実力にランク付けをして今後の魔法実習のグループ分けが決まるから結構重要ね。


 実習棟には射撃の的みたいなのが設置されていて、標的は結構頑丈そうに見えるけどわたしもアイも余裕で破壊できるはずだわ。


 わたしたちのクラスは上級貴族クラスのせいか、既に家で魔法の訓練を多少してきた生徒が多く、殆どの生徒が結構な威力の魔法を使え、全く魔法を使えない生徒はごく少数だった。


 魔法の威力には結構個人差があるけど大抵は標的まで魔法が届き、約3割の生徒が標的を破壊することが出来た。


 測定結果を見て、校長先生は上機嫌だ。


「今年の生徒は、なかなかよろしー!」


 *


 上級クラスの生徒たちの測定終わり近くになってわたしたちのグループの番が回って来た。


 まずはアイの番だ。


 アイが手を掲げると、今まで見た事の無いような超巨大な火球が放たれる。


 その威力は強烈の一言。


 火球のあまりの眩しさに辺りを真っ白に染め上げたかと思うと、目にも止まらない速度で突進し着弾。


 耳をつんざく爆音と共に標的ごと背後の防御壁まで吹き飛ばすほどだ。


 親指をあげてドヤ顔をするアイ。


「やりました。木っ端みじんです!」


 あまりの威力に青ざめる校長先生。


 異世界学園物ではよくあるパターンだけど……やりましたじゃないよ。


 もうちょい手加減しないと!


 誰が修理代を払うと思ってるのよ……。


 わたしよ、わたし。


 アイの雇い主のわたしが修理代を払うんだからね。


 もうちょい、加減してくれないと困る。


 脳筋のチャールズ王子は大喜びだ。


「その威力に痺れたぜ!」


 アイと一緒に親指を上げてウィンクをして喜んでいる。


 応急処置で土嚢を積み上げて防御壁の穴は補修されたけど、修理代はいくらぐらい請求されるんだろ?


 *


 次はわたしの番。


 わたしは設備を壊さない様に直接攻撃タイプの魔法の炸裂を使う。


 炸裂魔法なら標的を中心に爆発するだけだから、後ろの防護壁を壊すことは無いわ。


 辺りに被害が及ばない様に魔力を調節し、最低限の魔力で炸裂を放った。


 これなら壊れるのは標的だけで、防御壁に被害は及ば――――。


 ちゅどーん!


 大爆発が起きて防護壁どころか、地面まで吹き飛んで大穴が出来た。


 嘘っ!


 結構慎重に威力を調整したはずなのに、なんでこんな威力が出るのよ!


 これじゃアイのことを責められない。


 今度は校長だけじゃなく、わたしも青ざめた。


「ど、どうなってるの? 魔力を最低限に調整したのにどうしてこんなことに?」


 なんでこんなバカみたいな威力が出てるのよ……。


「さすがアイビス様。凄まじい破壊力! 今日から破壊神とお呼びします」


「やめてよ、こんな威力を出すつもりなんて無かったし!」


「アイビス、やり過ぎだ!」


 アイに張り合ってわたしが大魔法を使ったとしかウィリアム王子は見えてなくて呆れかえっていた。


「すいません」


 わたしは平謝りするしかなかった。


 *


 次はチャールズ王子の番。


 チャールズ王子はわたしにボソりという。


「俺、魔法を使えないんだけど……」


「そうなの?」


「アイと剣の鍛錬ばかりしてて、魔法の鍛錬を忘れてた」


 いかにも脳筋らしいチャールズ王子らしい思考。


 ゲームではチャールズ王子が魔法を使う描写は殆どなかったけど、全く魔法が使えないとは知らなかった。


 これはお手上げね。


「今回の測定はなげるしかないわね」


「投げるのか」


 チャールズ王子はなにを思ったのか足元の小石を拾うと渾身の力で投げる。


「どりゃー!」


 ちょっと!


 その投げるじゃないから!


 凄まじい力で投げたもんだから凄まじい速度で小石が飛んで行って、小石が飛んでいくとこなんて見えるわけも無く標的にあたる。


 結果、標的は爆ぜた。


 それを見て先生たちはやたら感心している。


「無詠唱だったけど、炸裂魔法ですか」


 魔法を使ったと思っている先生たちはやたら感心してるけど、腕力で破壊したとは言えない。


 *


 ウィリアム王子の番になったが、すぐには魔法を撃たずに少し考え込んでいる。


「アイビスがわざと施設を壊したんじゃないとなると……」


 なにかを確認するべく大きな炎を指先に灯すと、納得している。


「こういうことか」


 ウィリアム王子はそう呟くと、標的に向けて火球を放つ。


 その威力は弱々しく、どうにか標的が破壊される程度だった。


 アイはそれを見てガッツポーズを取る。


「さすが破壊神アイビス様、魔法の威力でウィリアム王子に勝ちましたね! 圧勝です!」


 わたしも心の中ではガッツポーズを取るけど、表情には出さない。


 さっき、散々「やり過ぎだ!」と嫌味を言われたのでこちらも嫌味で意趣返しする。


「ウィリアム王子って魔法がお得意じゃなかったんですか? やっと標的が壊れるぐらいの威力しか出せて無いじゃないですか」


「わざとだよ」


 悔しまぎれに負け惜しみを言う王子。


 王子はわたしに嫌味を言われたのが悔しかったのか、地面に向けて炸裂を放つ。


 ムカついてる、ムカついてる。


 人の気持ちを考えないで嫌味をいうから、自分に返ってくるのよ……。


 言い返せて、ちょっと気分爽快だったんだけど……。


 地中から現れたのは魔道具であった。


「どうやら、こいつが魔法の威力を増強していたようだな」


 校長先生が拍手をしながら現れた。


「さすが、ウィリアム王子。この仕掛けを見破ったのはウィリアム王子が初めてです。隠し事をしても全てお見通しですな」


「これはなんの魔道具なんだ?」


「それは魔法威力増強の魔道具です」


「上流貴族の新入生に好結果を残させて自信をつけさせるための魔道具だな」


「左様でございます」


 ウィリアム王子はわたしとアイのいつもより強い魔法の威力を見だたけで真相まで辿り着くとは……素晴らしい観察眼だとわたしは感心した。

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