王宮住まい

 クリスくんとの一件があって以来、わたしには常にウィリアム王子の監視が付くようになってしまった。


 監視と言うよりも同行、一日中一緒に過ごすようになってしまったのだ。


 朝から晩まで一緒に行動して、訓練の時間も食事の時間もずっと一緒だ。


 寝る時以外ずっと一緒だ……。


 王宮の一室にわたしの部屋が作られてアイと一緒に衛兵の監視付の部屋に住むことになったのだった。


 さすがにベッドや部屋までは一緒じゃないけれど、ウィリアム王子がずっとわたしのことを監視していて疲れる。


 なにこれ、なんの罰ゲームよ。


 起きてる間はずっと王子がわたしに会いに来て監視をしているもんだから、勉強する振りをずっとしてなくちゃいけないから本当に疲れる。


「あー、朝から晩までウィリアム王子の監視がついて肩が凝るわ」


「そうですか? アイは王宮での生活に満足しています」


「そりゃ、アイは毎日チャールズ王子と模擬戦し放題で楽しいでしょうね」


 アイはニコッと微笑んで返事をしない。


 毎朝、食事のあとウィリアム王子と歓談をしている間にアイとチャールズ王子は模擬戦をして、昼ご飯後のうたた寝の時間も、夕飯前の休憩の時間も二人で模擬戦をしている。


 剣の腕前が相当上がってるらしく、二人だけで王国騎士団と互角に渡り合えるほど腕が上がってるとの噂だ。


 対するわたしはウィリアム王子の監視、監視、監視!


 浮気に疑われる行為をしたわたしが原因なのはわかってるけど、もう、しつこ過ぎて嫌になっちゃう。


 どうしてこんなことになったかと言えば、クリスくんとの一件が原因。


 あれ以来ウィリアム王子が毎日わたしのお屋敷に訪れるようになったんだけど、さすがにお父様のお屋敷迄毎日来るのは辛いからたまにはアイビスわたしの方から王宮に遊びに来てくれと招待されたの。


 王宮に興味があったわたしはアイとルードリッヒお父様と一緒にのこのこと王宮にやって来たんだけど、王宮で待っていたのは王様も含めての会食と言う名の顔合わせ。


「なんなんですの? これは!」


「両家の顔合わせだ。アイビスとの同棲のな」


 そう、しれっと言うウィリアム王子。


「同棲ですって!」


「同棲ですと!」


 言葉を失いそうになるわたしとお父様にウィリアム王子はしれっと言う。


「結婚はまだ出来ないけど、今日からアイビスには王宮に住んでもらう」


「なんですって!」


「なんですとー!」


 わたしもお父様も喉から心臓が飛び出そうなぐらいビックリだ。


 ジョージ王も困り顔だ。


「ウィリアムがアイビスと一緒に住めないなら王位は継がんと駄々をねてな……」


 いきなり娘と別れることになりそうなお父様は顔を真っ青にしている。


 ムスむすめコンコンプレックス親父としては娘ともう少し一緒に過ごせると思ってたのに寝耳に水である。


「いや、でも、アイビスもウィリアム王子も未成年ですし、まだ結婚するのは少し早いかと」


 ジョージ王がルードリッヒお父様の説得を始める。


「いや、結婚するのは水晶学園を卒業してからのことだ。あくまでも王宮暮らしを始めるだけだ」


 ウィリアム王子も語気を強める。


「こうなったのもルードリッヒ卿の責任ですぞ!」


 お父様は更に青ざめる。


「わたくしの責任ですか?」


「そうだ。アイビスは俺の婚約者なのに間男を連れ込んで浮気をしようとしていたのだ」


「それは誤解です!」


 わたしは必死に弁明するけど、王子は反論されるのも筋書き通りで全く動揺しないし、聞いてもくれない。


「俺の迅速なる立ち回りにて浮気は阻止できたが、次期王の王妃となるものに浮気をされたらシャレにならないからな」


 それを聞いてルードリッヒお父様はわたしに詰め寄り激怒をする。


「アイビス! 間男を連れ込んだというのは本当なのか?」


「いえ、間男など連れ込んだことはございません」


 ここで、強い反論をしても逆効果。


 わたしは元アラサーの余裕を見せる。


 そう、褒め殺し作戦だ。


 年相応の少女ならここはオロオロするだけだけど、元アラサー女の貫録をなめんなよ。


「確かに治癒魔法の先生の助っ人に治癒魔法の指導を受けたことはございますが、助っ人を呼んだのは治癒魔法の先生でございます。その助っ人は女性である治癒魔法使いの先生の弟です。姉の監視のある中で浮気など出来るわけがございません。ましてやわたしが愛するのはウィリアム王子ただ一人だけでございます」


 ウィリアム王子を持ち上げれば王子も安心してこの同棲話は無かったことになるかと思ったんだけど……。


「じゃあ、愛する者同士、同棲してもなんの問題も無いな」


「なんの問題も無いな」


 事前に示し合わせていた王子と王様の声がハモった。


 うが……。


 その後どんなに抗議してものれんに腕押し。


 悪徳セールス商法のマニュアルの如く、事前にどんな反論にも完璧な回答が用意されていたのかわたしの反論は全く通らない。


 こうしてアイビスわたしは着の身着のままで王宮住まいとなってしまったのだ。

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