日常ホラー~K・Aさん~

夏ノふゆ

第1話

生温い風の吹く夏の夜


今夜も彼女はひっそりとやってくる


俺の元に




――これは、今夜にも貴方の身に起きるかもしれない、そんな話―






些細な異変に気付いたのは月曜の朝だった。いつもと変わらない朝なのに、いつもとは

少し違う自分の身体。



気のせい? いや気のせいじゃない。

さっきまで何も感じなかったのに人間というのは何故気付いた途端そればかり気になりだしてしまうのだろう。


なんて思っていたのに会社に出勤すれば忙しさに気を取られ、帰宅した頃にはそんなことはすっかり忘れてぐっすり眠ってしまった。






翌日、起きてすぐに気が付いた。


まただ。昨日と同じだ。


明らかな身体の異変にザワザワと嫌な予感が胸をよぎる。


まさか本当に……いやでも……、


わかっているのに、それでも気のせいかもしれないと半分の希望を込めてその事実に蓋をした。





水曜の朝、その希望は無惨に打ち砕かれた。



彼女だ。彼女が居る。



目に見えずとも、声が聞こえなくとも、

彼女は確かに居る。この部屋に。



きっとあの日だ。

あの日連れてきてしまったのだ。


友達四人で行ったその滝は、鬱蒼とした森の奥、駐車場からも少し歩く場所にあって。

昼はただの有名な観光スポットだからと明るい内に行くはずだったのに、寝坊した一人を迎えに行ったり道を間違えたりして、その滝に着いた頃には日は暮れかけていた。


日が落ちる前にと急いで戻った車に乗り込めば木々の騒めきと迫り来る暗闇に皆じっとりと嫌な汗をかいていて、皆帰る前にちゃんと身体を清めていたのに俺の番になれば丁度それが無くなってしまいそのまま帰ってきてしまったのだ。


こんな事なら人に頼らず自分の分くらい用意していくんだった、なんて日曜の自分を責めた所で今ここに彼女を連れてきてしまった事はもはや変わらない。





……彼女の名前はK・A。


誰に聞いたわけでもない。でも知っている。彼女は今もこの部屋のどこかから俺を見ていて、俺が眠るのを静かに待っている。そしてまたひっそりとやってきて傷跡を一つ残し暗闇の中赤黒く微笑むのだろう。


きっと殺されはしない、でもじわじわと、

確実に俺の血肉を奪っていく。きっと、これから毎日、毎日毎日毎日毎日毎日……。


もうやめてくれ! 隠れてないでいっそのこと姿を見せてくれ! そう思う反面、姿を見てしまったらもうそこで彼女と対峙しなければならなくなってしまう。


もしそこで取り逃がしてしまったらその夜からはきっと底知れぬ恐怖で眠れなくなるに決まっている。


そんなどうしようもできない気持ちを殺し、今夜もまた彼女の残した傷跡にゆっくりと塗る。









ウナクールを。

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日常ホラー~K・Aさん~ 夏ノふゆ @natsuno_fuyu

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