第11話 ポンコツなランチタイム【2】



 中庭には幸い誰もいなかった。


 まあ、まだ熱いしなあ。室外よりは室内で食うよなみんな。うん、よかった。少しでも人目は少ないほうがいい。


 木陰にあるベンチにこしかけた俺たちは、互いに弁当箱を広げた。直方さんのそれはうさぎさんの型をした非常に可愛らしいもので、なんというか幼稚園児ですかあなたと言いたくなる。


「……なんですか?」


 キョトンとした顔で訊いてくる直方さん。


「いや、なんでもないよ。弁当箱かわいいなって思っただけだから」


「えっ!?」


 突然大声を出したもんだから、びっくりして弁当を落としそうになった。


「……突然どうした?」


「そ、そんな可愛いだなんて……うへへ……銀次さんに褒められたですぅぅ」


「いや、褒めたのは弁当箱だぞ?」


「うへへへへっ、これはもうお付き合い確定では……銀次さんがかわいいなんて褒めるのは好きな子に対してだけですもんねぇ。えへ、えへへへへへ」


「話聞けよ」


 変な笑顔でうへへと言い続ける直方さんは、くねくねと身体を動かしてめっちゃ気持ち悪い。こんな妖怪いたら妖怪ウォッチ持っていても友達にはならんわ。


 たしかに、かわいいって直接褒めるのは好きな子にだけって決めているけどさあ。お前みたいなゆるふわ妖怪、今のところ対象外だわ。


 …………。


 ……。


 ……いや、待て待て。なんでそのことを知っている風に話した?


「……」


 うん、きっと偶然だ。偶然だよな。最近ツイッターでそんなことをつぶやいたけど、全然違う名前でやっているし、わかるわけないよね! 俺のアカウントアイコンうんこドリルだし! 銀次っぽさは欠片もないはずだから!


 俺は考えるのをやめて弁当箱を開いた。


 唐揚げ、卵焼き、ウインナー、ポテト、ミニトマト、ブロッコリー、そして妹が凝りに凝ったりんごの飾り切り。豪華なラインナップだ。俺の好みを押えてある。さすが妹様。俺のことをよく見てるね。


 見ているだけでお腹がなったよ。さあて、食べよう食べようか。


 お箸を取り出して手を合わせたとき、俺はふと直方さんが開いた弁当箱の中身に目をやった。


 うん、箸を落としたよね。


 唐揚げ、卵焼き、ウインナー、ポテト、ミニトマト、ブロッコリー、そして凝りに凝ったりんごの飾り切り。豪華なラインナップだ。俺の好みを押えてある。さすがポンコツゆるふわ眼鏡。俺のことをよく見てるね――。

 

「いやいやいや、待て待て待て待て」


 こわいこわいこわい。


 なんで、中身が全く一緒なんだよ!? 偶然の一致じゃねえだろ絶対! だってりんごの飾り切りの柄まで一緒だもんよ! え、やばすぎて笑えるんですが?


「わあ、銀次さんのお弁当も美味しそうですね〜。さすがさくらちゃんですっ。すっごくお料理上手ですよね〜。調理部の部長さんだけはあるです」


 直方さんはニコニコしながらそんなことを言ってきたけど、俺にはサイコパスの笑みにしか見えませんよ!


 つーか、なぜ妹の名前まで知っているんですかね? しかもあいつが調理部の部長ってことまで把握してるし……。


 蝉が元気に鳴いているけど、俺の腕には鳥肌が立ちました。こわすぎ……なんだこいつ……。


 俺は腰を浮かせて、そのまま横にスライドした。


「え、え……? なんで距離を置くです?」


「いやいや、取りますよそりゃ……。え、なんで俺の弁当の中身とまったく一緒なの? わかるわけなくない?」


「……? ああ……」


 直方さんは小首をかしげ、得心がいったように手を叩いた。


「さくらちゃん、ツイッターに写真であげてましたよ。だからそれ見て急いで作ったですです」


「な、なんでさくらのアカウント知っている? あいつ絶対本名でやってないしリア友に教えるタイプでもないから分かるわけねえじゃん……」


「え、特定したです」


 当然のごとく言いやがりましたよこの人。


 俺はさらに身体を引いた。


「そ、そんな驚くようなことじゃないですよ? リアルの知り合いとか探すのってそんな難しくはないですから」


「ストーカーの常識は知りません! つーか、やっぱお前やばいやつだな! 一緒にランチなんかするんじゃなかった!」


「ひ、ひどいです! 好きな人の家族のことくらい詳しく調べるのは当たり前です! 全乙女の常識ですよ!」


「全乙女に謝れ今すぐ!」


 俺は全力で吠えるしかなかったね。

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ポンコツなヤンデレラ 浜風ざくろ @zakuro2439

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