第10話 ポンコツなランチタイム【1】
自分で言うのはなんだが、俺は目立つ。
身長が一九〇センチ近くあり、格闘技もしていたからガタイもいい方だ。それだけでも迫力があるというのに、ヤクザと間違われて職質されることがあるほどに強面である。自分で言うのはなんだが、たまに朝鏡を見ると自分の人相の悪さにびっくりすることあるよ、うん。
そんなものだから、まあ、クラスメイトたちからは怖がられているよ。挨拶しただけで顔をひきつらせながら逃げるやついるくらいだし。いや、巨人に遭遇したシガンシナ区の住民みたいな反応すんなや。俺は人間だぞこら。
そんな感想を頭に思い浮かべる毎日だが、俺としてはとにかく目立つのが好きではない。とくに文句は口にせず、なるべく目立たないよう教室の角で大人しく本を読んでいる。「縮こまるラオウ」と言われ、飯塚には笑われたが……。
そう、俺は極力目立ちたくないんだ。
大好きな赤井つむぎ先生のラノベを、ただ静かに読んで静かに過ごしたい。
それなのにさあ……。
「……」
昼休みの休憩時間。やつがきた。
教室の入口からゆるふわな頭がのぞいている。顔を出してはひっこめ、顔を出してはひっこめ忙しいやつだ。教室中の視線がやつに向いて、こっちに向けられる。やつが俺の方しか見ていないから、誰に関心があるのかは一目瞭然というわけだ。
「うわあ来たよ来たよ。シャッターチャンスかな」
飯塚がニヤニヤと笑いながら煽ってくる。
「おい、撮るなよ?」
「えーいいじゃん。『糸島銀次、ロリからストーカー被害を受ける』という題材で記事を書きたい」
「そんなの書いたらパソコンごとお前を潰してやる」
「えーひどーい。いいじゃんちょっとくらい書いても」
「いいわけねえだろ」
俺はため息をついて席を立つと、弁当袋をひっつかみ教室を出た。もちろん直方さんはスルーする……といいたいところだが、クラスメイトたちが見ている中で無視はできない。
直方さんの前に立つ。キョトンとした表情を浮かべたゆるふわポンコツ眼鏡の頭に、ぽんっと弁当袋を置いてやる。
「……なんか用か?」
「あ、ひゃ、ひゃい! ぎ、銀次さんに会いに来たんですです!」
「そうか。あー、俺はいまから中庭へ行って御飯食べるんだけど……用事があるなら、できるだけ早目に言ってほしい」
「え、あ……わ、私もその……お弁当なので一緒に食べたいなって思ってきたです!」
「へー……」
美少女とのランチってイベントは悪くないんだけど、いかんせん俺がいかつすぎてどう見ても絵面が美女と野獣なんだよな……。いや、ロリと野獣か……。犯罪の匂いしかしねぇ。
そんな光景、百パーセント目立つことは間違いないので俺としてはなんとか避けたい。だが、直方さんが上目遣いの涙目で「駄目ですか……?」と訊いてくるし、様子を見ていたクラスメイトたちの目もなんか厳しいしで、断りにくいことこの上ない。飯塚、てめえはスマホカメラ向けてんじゃねえ。あとで覚えてろよ。
「……わかったよ」
俺は息を吐き出しながら応えた。
直方さんの顔がぱあっと華やぐ。光が迸って、そのへんから花が生えてきそうなほどの浄化の力が感じられたよ。
こいつ、可愛いんだよなあ……。
「あ、シルバー顔赤くなってる!」
飯塚が面白おかしく笑いながら言ってきた。うるせえ、美少女の笑顔はどんなものよりも尊いんだ。顔くらい赤くなるわ。
「けっ、おら……いくぞ」
「はいです!」
直方さんがトコトコとついてくる。母猫を追う子猫みたいな足取りで。
「はーーーっ……」
可愛いなちくしょう!
俺はこのとき忘れてたよ。
こいつが、やばいやつだってことを。
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