第3話 ポンコツな監禁事件【3】
さて、どう逃げようか?
なるべくなら、ゆるふわな間抜け少女を傷つけない方法で逃げたいね。無理やり跳ね除けるのもパワーに差がありすぎて下手するとケガさせかねないしな。ヤバイ奴とはいえ女の子だからね一応。丁重に扱いたい。
俺は部屋を見渡す。
ファンシーなぬいぐるみが置かれた女の子らしい部屋だ。窓枠に鉄格子がついているわけでも、「呪怨」のワンシーンみたいに窓中に新聞紙が貼り付けられているわけでもない。ただただ
俺はベッドの位置を確認すると、息を吐いて肩の骨を鳴らした。
直方さんが「ひっ」と悲鳴をあげる。フリーザの第二形態をみたクリリンみたいな反応すんなや。
「あー、直方さん。一つ質問なんだが」
「ひゃ、ひゃい……! な、なななんでっしゃろ?」
関西人が鼻で笑いそうな関西弁を天然で披露した直方さんに近づく。彼女はきょどきょどと目を彷徨わせ、なぜか頬を赤く染め始めた。
「ま、まだ早いですよ……! 私達は学生なんですから……それにほら、隣には弟がいますですし……」
クネクネさせながら、直方さんがうへへと間抜けな笑いをこぼした。
さっきまでなら多少はピンク色の展開も期待できていたけどね。もうそんな気分は風のごとく消え失せたよ。やばすぎる盗撮写真とこのチンチクリンの間抜けっぷりに血も毒気も引いたからな。
「話を聞いてもらえる?」
「ひゃい!」
「えーとね……改めて直方さんに質問なんだが。直方さんは高いたかいはすきかい?」
「え……高いたかい?」
直方さんは猫目をパチクリと動かした。
「な、なんでそんなこと訊くですか?」
「いいから。好きかどうか教えて?」
「そ、それは……子供の頃は好きでしたけど……」
「そうかい」
俺はにっこりと笑った。
「なら、高校生はまだ大人じゃないし今も好きだよね!?」
無茶苦茶な論理を展開して、俺は直方さんの脇に手を差し込んだ。女の子のやわらかぁい感触に、一瞬気持ちが揺らぎかけたが、鉄の意志を取り戻した。
真っ赤に染まって、口をアワアワさせる直方さんは最高にかわいい生物だ。
俺はその生物を高らかに持ち上げ、後ろにあったベッド目がけて投げつけた。
「ふえぇっ!?」
鳩が豆鉄砲をくらった顔で飛んでいった直方さんは、ベッドへと綺麗に吸い込まれ、あざらしのぬいぐるみを吹き飛ばしながら沈み込んだ。「ふぇえ」という悲鳴がくぐもった音で響いている。
ごめんね! でもよかった、狙いどおりにベッドに収まってくれて!
「さよなら!」
俺はそそくさと鍵を開け、飛ぶような勢いで階下へと降りようとした。「いかないでえぇ」という涙声が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。さて、さっさと帰って「赤井つむぎ先生」の新作異世界転生ハーレムものを見るとしよう!
と、そこに壁が立ちはだかった。
一階へと降りた直後。この騒動のすべての原因たる憎むべき後輩、春道が立ちはだかった。
「待ってください! 銀次先輩!」
「待つかぁ!」
腹が立つくらいイケメンクソ野郎の後輩に、俺は叫びながら足払いをしかけた。問答無用の一撃だから、さすがにかわせなかったのか、春道は尻餅をついた。
「じゃあな、次からの家庭教師は別のやつに頼めよ!」
「先輩っ」
春道は、酔拳の頃のジャッキー・チェンばりの反射神経で飛び起きると、その勢いのままスライディング土下座をかました。
「うちの、アホな姉がすいませんでしたぁ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます