第2話 ポンコツな監禁事件【2】
犯行状況は以上だ。
でも、そんなものは一気に消え失せたよ。このやばい女の部屋にかかった、地球環境に厳しすぎる過剰な冷房のせいじゃない。寒気だ。怖気だ。写真のインパクトがはんぱねーもんな。
「……」
とりあえず、真っ白な頭に色を取り戻そうと努める。
俺はいま、監禁されているらしい。鍵を閉められた瞬間、そう宣言された。そして数え切れないほどに壁に貼り付けられた自分の盗撮写真を発見した。
……やべえ。意味不明すぎだろ、おい。なんなんだこの状況? なんで俺はこんな目にあってるんですかね? え、俺はこの子と接点ないはずなんだけど、こんなストーカーいつできた?
俺はとりあえず深呼吸した。
わからん。とにかくわからんが、まあいい。
こういうときは、いったん対話しかない。
俺はとりあえず尋ねた。
「あー、なんかよくわからんけど。……帰ったら駄目?」
ゆるふわ少女が慌てて首を振った。
「だ、駄目です駄目です! 銀次さんは、私とここで一生を過ごすんですです! 三食風呂付きゲーム三昧、そして私のお世話を受けられるサービスばっちりな快適ライフが待っているですよ! 帰る理由ないじゃないですか!」
「いやいや、帰りたい理由しかねえよ……。部屋一面の写真見てみろー、どう考えてもお前ヤバいヤツだろ? サービスばっちりなのも全部帳消しだよ」
「あ……ああ! 隠し忘れてました! 春くんからしまっておくよう言われてたのに! ち、違うんです! つ、ついつい撮ってしまってあまりにもかっこいいから飾りたくなるんです! クリスマスの飾りつけみたいなもんです! ほら、キラキラしていると飾りたくなるじゃないですか!?」
「さ、さいですか」
クリスマスの飾りつけと盗撮写真を同等レベルで語っててやべーな……。
というか、やっぱこいつは春道の姉なんだな。あいつは中学三年生にして高身長の爽やかイケメンといういけ好かない野郎だが、そいつの姉にしては身長からして似ていなさすぎる。やっぱり姉なんかじゃなくて、リスが変身でもしたんじゃないか? あいつたしかリス飼っていたはずだしな……。
いや、そもそも春道の野郎はさっきからどうした? こいつの口ぶりからしても、あの野郎が姿を見せない点でも、間違いなくこの件に一枚噛んでるやがるよな。あの野郎……ただじゃおかねえ。
「えーと……直方さん? でいいのかな?」
「……あ。やっ、やっぱり……」
「やっぱり?」
「あ、いえいえいえ! 大丈夫です。今から愛を育んでいけばなんの問題もありませんです!」
「問題しかねえよ!? なんなんだお前は!?」
俺がツッコミをいれると、ゆるふわ少女は小さく悲鳴を上げた。え、俺が悪い? 俺の人相が悪いからってそんなビビる? 俺はお前にビビってるよ。
ため息を付いて、尋ねた。
「ところで、君は春道のなに?」
「あ……は、春くんのお姉さんです私! 直方佳奈多っていうですです! 佳奈多って呼んでください!」
「そう。直方さん、あのさ……」
俺は直方さんの申し出を黙殺して、彼女に向かって指をさした。
「は、ひゃい……」
「その後ろ手に隠しているものはなに?」
「え……こ、これですか?」
直方さんは、ひょいっと隠しているものを出した。
うん、やばいね。手錠だね。
「……それで、なにをするつもりかな?」
「え? 監禁ですが?」
当たり前でしょ、みたいなパチクリとした目でいいやがったよこいつ。
つーか、手錠って……それ百均で売っている玩具のやつだろ……。めっちゃしょぼいプラスチックのすぐ外れるやつ。そんなんで、俺を捕縛できると思ってんのか? 身長一九〇センチ近くある武道経験者なんだぞ。ケンシロウばりの勢いで破壊できるわそんなもん。
直方さんはなぜか照れくさそうに微笑んだ。
「えへへ……銀次さんがとうとう私の部屋に繋がれるんですね。ずっと、ずっとずっとずっと憧れていたシチュエーション……。お世話をいっぱいできるんですね……夢がかなってよかったです! いいことあると信じて、毎日駅前の赤い羽根募金にお金を入れていてよかったですです」
めっちゃ不純な動機で募金してんなこいつ……。
ていうか、目から光消えてんなあ。これがヤンデレってやつですか? ネット小説読むの好きだから色んなラブコメをみて色んなヤンデレに触れてきたけど、天然物はずいぶんなんというか……間抜けなんだな……。
いや、だってさ。
監禁監禁言ってるけど、まだ手錠はされてないし鍵を内側から施錠しただけだもんね。
「……うん」
余裕で、逃げられるね。
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