第3話 孤独な名探偵
「でも、最初は3年の古畑さんがやる予定だったんだけど、何故か急に辞退しちゃって」
「あ…それ……」
「噂じゃ、放課後にピアノが勝手に演奏したのを聞いて怖くなったとか」
「え?どういうこと?」
ピアノが勝手に?よく学校の七不思議に出てくるやつ?
「本人が言ったわけじゃないらしいんだけど、部内でそういう噂が広まってるのよ」
「噂…ねえ……」
「まあでも、あのピアノだって蘭のお父さんが寄付したものなんだから、蘭が弾くのが正解なんだと思うわ」
「ピアノを寄付?」
「そう。蘭がこの学園に入学が決まった時に、最新式のピアノをドーンと寄付したのよ。これを使ってピアノパートのある曲を娘に弾かせろって無言の圧ね」
「あの…右京……さん」
「あ、冗談よ」
「ピアノを寄付って…あれって結構な値段するよね?」
「何百万とかするやつね」
「うわ……」
「蘭の家はお金持ちだからね。娘が吹奏楽部に入るならっていうんで奮発したらしいわ。ちょうどそれまでのピアノも古くなってたみたいだし」
奮発のレベルが違う。
僕なんて学食で奮発してA定食にするか、50円安いB定食にするかで毎日迷ってるのに。
「浅見さんはピアノ続けてるの?吹奏楽部でも湯川さんとライバルになる感じ?」
イメージ的にピアノパートは一人だろう。だったら、同学年の浅見さんと湯川さんのどちらかしか演奏でメインにはなれないんじゃないんだろうか。
「ああ、私はピアノ辞めたの。今はフルートよ」
そう言って手に持っていた細長いケースを僕に見せた。
あ、これはフルートを入れるケースだったのか。
そこまで話をしたところで、僕たちはそれぞれの家路へと別れた。
「ワトソン君!君はどうしてこんな面白そうな話を黙っていたんだ!」
翌日の昼休み。部室に呼ばれた僕は入室早々ホームズ先輩に詰め寄られる。
結構な力で襟首を掴まれ、唾がかかるほどの至近距離で叫ばれている。
てか、結構かかってる。汚いから離れてほしい。
「えっと、何の話でしょうか?」
「何の話?吹奏楽室のピアノの話に決まっているだろう!」
これはまた耳の早いことで。
「あのような学園七不思議を報告しないということは、自分一人で謎解きを楽しむつもりだったんだな?!」
「部長と一緒にしないでください」
「ホームズ。そんな七不思議はうちの学園には無かったはずよ」
ミス・マーブルこと馬淵先輩が助け舟を出して――
「それに私は昨日から知っていたしね」
「知らなかったのは俺だけじゃないかあぁぁ!!どういうことだワトソン君!!」
火に油をぶちまけやがった。
「い、いや、もう知ってるんだったら良いじゃないですか。一日早いか遅いかの違いなんて――」
「大違いだあぁぁぁ!!一日あったらどれだけの謎が解けると思っているんだ!昨日俺が部室でぼんやりと過ごした時間が無駄になったじゃないかあぁぁ!!」
「どっちにしても無駄です。ぼんやりしてないでちゃんと新聞作れや」
「何か言ったか?」
「いえ別に」
「とにかく!我々新聞部としては、こんな面白い謎を解かないわけにはいかないだろう!!」
そんなことはない。
解く前に記事にしやがれ。
「早速今日の放課後に吹奏楽室へ行くぞ!ワトソン君は、君の彼女に連絡をとってそう伝えてくれ!」
「彼女じゃないし、彼女にそんなことを言っても、いや今の彼女っていうのは恋人って意味の彼女じゃなくてですね――」
「あれ、もう私は謎解けちゃったわよ」
マーブル先輩の一言で場の空気は寒気がするほどに凍りついた。
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