第44話実兄との戦い


 コクヨウの爪が、鋭く伸びた。


 それは手だけではなく、足の爪も同じである。革製の靴を突き破っていることから、爪の鋭さは獣を上回るものがあるだろう。


 コクヨウは目のも止まらぬ動きで、フブキを蹴り飛ばした。コクヨウも珍しい魔法使いである。それは、全身のさらなる強化というものだ。


 ただでさえ冒険者は魔力で肉体を強化されているというのに、コクヨウの魔法はさらに強化が上乗せされる。


 肉体の一部を操るという魔法を使うメノウとは、似ていると言えば似ている魔法である。魔法使い独特の遠距離攻撃に向いておらず、一見すれば残念な魔法だがフブキのような前衛に特化した人間には恐怖を感じだせる魔法である。


 なにせ、筋力が倍以上違うような猛獣を相手にしているようなものなのだ。鋭い爪も相まって、ダンジョンの外で熊を相手にしているような感覚に近いのである。


 熊は獣だが、コクヨウには知能がある。技術があり、経験がある。肉を抉るように爪を振り回し、コクヨウは腹の肉を抉ろうした。


 それをフブキはトンファーで防いだが、コクヨウの筋力をまでは防ぐことは出来ずなかった。フブキは吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、胃液を吐き出す。


 信頼度が低い昔のランキングとはいえ、冒険者のなかで最強と言われるだけはある。恐ろしいほどに重い攻撃は、鋭い爪を防いだとしてもダメージになった。


「メノウ。お前は、俺には敵わない」


 コクヨウの言葉が、メノウのプライドを突いた。生死をかけた戦いも知らない人間が何を言っているのかと怒り、それを体現するように髪の毛が逆立つ。その髪は二つに別れ、コクヨウに向かって伸びていった。


 コクヨウは伸びた爪でもって、伸びてくるメノウの髪を切り裂こうとする。だが、髪は爪に巻き付いてコクヨウの動きを阻害した。


 両手を拘束されたコクヨウは、これを待っていたとばかりに全力で巻き付いた髪を引っ張る。


 吊り上げられた魚のように空中に浮かんだメノウは、蛇を出現させてコクヨウの頭を狙った。だが、力で優っているコクヨウにはメノウの拘束など意味をなさない。爪で蛇が切り裂かれ、魔力で実体化していた蛇は一時的に消滅する。


 メノウは髪での拘束を解き、コクヨウの意のままに地面に叩きつけられることだけは防いだ。しかし、高く投げられたので着地の衝撃で足が痺れてしまった。


 ちらり、とフブキの方を確認する。


 その視線に気がついたフブキは、小さく首を振った。呼吸などは落ち着いているが、参戦は難しいようだ。どこかの骨が折れているのかもしれない。


 メノウは髪の一房を刃のように尖らせて、別の房で盾を作り出す。下手な遠距離戦では、先ほどのように捉えられて投げられてしまう。ならば、相手の得意分野であろうとも接近戦で攻めるしかない。



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