第42話タッグ


「最近は単独行動が多いようだが、ちゃんとパーティでの動きは覚えているな?」


 嫌みのようなフブキの言葉だったが、メノウは元気よく頷いた。


 忘れたことなどない。


 まだ幼いメノウを特例でダンジョン警察のサポーターとして採用した際に、フブキが最初に彼に教えたことである。ダンジョン警察の活動の基本は二人であり、コンビネーションが求められるのだ。


 フブキが前衛として前に立ち、メノウが後ろと左右を警戒する。これが二人の基本ポジションだ。前衛に特化したフブキは、メノウが一人で戦うときよりもずっと早く敵を屠ることが出来る。


 一部の隙もない動きで、相手の弱点をフブキはえぐっていく。種族によって変わるモンスターの弱点を記憶し、最適化した動きを見せているが故の早業だ。


 言うが容易いが、実行できるようになるのは難しい。フブキは血の滲むような努力で、これをものにした。


 フブキが身につけた技は、進むことに特化している。ダンジョンのボス部屋までたどり着く速さは、ダンジョン警察のなかでは最速である。


 そして、その速さはメノウがサポートをすることで実現している。だからこそ、二人は戦闘においては理想のパートナーであった。


 フブキの足が急に止まった。


 なにが起こったのだろうかとメノウは、フブキの影から顔を出した。しかし、それすらも許さないフブキは許さない。前に出ようとするメノウを手で制すのであった。


 その理由は、目の前にあった。


 泉コクヨウが、姿を現したのである。


 メノウにとっては数度目かの体面になるが、その思い出はどれも良くはない。メノウの存在を幾度となく否定してきた人間なのだ。印象が良くなったら、それこそ奇跡であろう。


 メノウはコクヨウを警戒しつつも、左右と後ろの警戒を止めない。


 不測の事態にはなれている。だからこそ、基礎を疎かにすれば足元をすくわれることも分かっていた。コクヨウは恐ろしい敵になりうるが、ここでモンスターに襲われたら目も当てられないのである。


「今回のダンジョン発生原因はあなたですか?もし、そうならば同行してもらいます」


 フブキは、コクヨウを前にしてトンファーのかまえを変えた。


 対モンスター用のものから、対人用のかまえ。そのわずかに変化に、コクヨウは薄く笑う。


 対モンスター用と対人用をしっかりと分けているフブキは、しっかりと訓練された冒険者であろう。我流で成り上がった冒険者とは違う気配がした。


 自分やメノウとは違う人種だ。


 こんな人種が、どうしてメノウのような人殺しを許して許容できるのかが、コクヨウには分からなかった。人殺しは、絶対に許されない罪だと言うのに。


「俺の両親は殺された。なのに、どうして弟のお前まで人殺しになったんだ?人を殺さなくても生き残れただろうに……」

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