第41話緊張感皆無


「そうだからな、メノウ。俺だって心配したんだぞ」


 ユウダチは、そう言ってメノウの頭をなでようとした。カスミの真似をして、追随しようとしたのである。しかし、薙ぎ払われた。


 その時のユウダチの顔は引きつっており、フブキとカスミは思わず噴き出してしまった。それどころか、メノウは犬でも追い払うかのようにしっしと手先を動かす。


「ユウダチさんよりも僕の方が強いですから、心配しなくていいですよ。ご自分の心配をしっかりしてください。体力大食らいなんですか」


 おそらくは、体力バカと言いたかったのだろう。


 メノウの独特な言い間違いに気がついたユウダチの眉間の皺が深くなる。最近——……いや、初対面の頃から薄々感じていたのだがメノウはユウダチを舐めている。フブキの方が給料は高いが同世代だというのに、尊敬とか信頼が全く感じられない。


 カスミに良い様にやられているところを見せてしまっているせいなのだろうか。だが、ユウダチは恩師には逆らえない性格なのだ。つまり、一生このままということである。


「お前は、お前は……。俺にだけ、どうして妙に厳しいんだ!」


 メノウの扱いが酷くて、ユウダチは泣きそうになっていた。自分だって、メノウの特別になりたいのだ。だが、すでに保護者という肩書はフブキとカスミが十二分に背負っている。


 遠縁とはいえ、フブキは親戚で後見人。法的にも保護者だ。


 カスミは元教師で、子供を導くプロである。


 ユウダチは法に保証されてもなければ、プロでもない。潤沢な保護者層には、どうやっても割り込めないのだ。だからこそ、兄貴のポジションが欲しいというのに。


「だって、ユウダチさんに死んで欲しくないんですよ。フブキさんは僕が守れるし、カスミさんは経験豊富の後衛だけど……。ユウダチさんは、危ない前衛じゃないですか」


 冒険者同士でパーティを組みに当たって、一番危険なのは前衛である。だからこそ心配だというメノウに、ユウダチは少しばかり感動していた。


 暗にユウダチが弱いと言っているだけなのだが、気にかけてもらっていたという事実だけでユウダチは舞い上がっている。


「メノウ。俺は、お前が良い子だって気がついていたんだからな」


 ユウダチはメノウに抱き着こうとしたが、カスミの背後に隠れられてしまった。さすがの恩師を押し退けるわけにはいかず、それでも両手を広げてユウダチはメノウを待っている。メノウが飛び込んでくることは、一生ないであろうが。


「そこら辺にしておけ、二人とも」


 フブキは、ユウダチの頭を叩いた。


 要救助者のはずの高校生たちの準備はすっかり整って、ユウダチたちの寸劇をぽかんとしながら眺めていた。ユウダチは「緊張をほぐすためのじゃれ合いだから」と苦しい言い訳をしていた。


「メノウ、俺と共に先に進むぞ。まだ巻き込まれている人間がいるかもしれない」


 フブキの命令に、メノウは言いよどむ。


「でも……レイドバトル階層にいるかもしれないイチズさんたちが」


 レイドバトル階層には、どのようにいけるのかが分からない。そのため、そこに行くために行動できることが限られているのだ。


「分かっている。でも、今は助けられる人間を優先させるしかない」


 要救助者の高校生たちをユウダチとカスミたちに任せ、フブキとメノウは先に進むことになった。


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