第37話救助活動



「ダンジョンが出来ているのに、どうして入れないんですか!」


 メノウは、フブキに詰め寄った。


 高校内でダンジョンが発生しと報告を受けたのは、十五分前のことである。近場にいたイチズとフブキは高校にすぐに駆け付けることができたが、上司からの連絡で待機となっていたのだ。


「偶然だが、ここはイチズが通う高校だ。そして、イチズもダンジョンに取り込まれている。最悪なことに、レイドバトル階層にいるらしい」


 フブキは、メノウにスマホを見せた。イチズが運営している動画サイトであり、細心の動画にはライブの文字が端に映し出されていた。


 生配信というものである。スマホを持っていないメノウにはよく分からないが、これは今現在起こっていることを映し出しているらしい。


 そこには、イチズの姿が映し出されていた。


 見覚えのない女子生徒と共に、自分たちがレイドバトル階層に閉じ込められたことや武器を持っていないことを訴えている。幸いなことに、敵はまだ表れていないだろうが。だからといって、安心はできない。


 レイドバトル階層は、普通のダンジョンですら分からない事が多いのだ。今回の件では、さらに不確定要素が多いと考えられる。そもそもレイドバトル階層に落ちてしまったのが二人だけというのが異例の事態だ。


『ここはレイドバトル階層だと思うけど……モンスターはまだ出現していません。武器もないし、どうしろっていうのよ!!』


 スマホのなかで叫ぶイチズの姿は、今までに見たことがないほどに混乱している。戦えない状態でレイドバトル階層にいるなど恐怖以外のなにものでもないだろう。


 この恐怖は、冒険者ならだ誰でも想像できる恐ろしいものだ。メノウであっても、背筋が寒くなる。


「だったら、いっそのこと急がないと大変なことになりますよ。よりにもよってレイドバトル階層に丸罰なんて……」


 フブキは、大きくため息をついた。


 「いっそのこと」は、「なおさら」「丸罰」は「丸腰」と言いたいのであろう。こんなときに言い間違えるなと言いたいが、他の言語でまくしたてられても困る。


「だからこそ、人数が必要だ。このダンジョンには、コクヨウが関わっている可能性がある。ということは、人が変化したダンジョンということだ。ダンジョン警察の人間であっても少人数では入れられない、というのが上の判断だ。せめて、ユウダチとカスミが来るまでは待て。それぐらいの人数がいないと救助もままならないぞ」


 イチズは、高校の校舎を見た。


 内部から発現したダンジョンのせいで、校舎は崩壊してしまっている。その様子は校舎の真ん中から、タケノコが生えて来たかのような光景に見える。壊滅的な状況である。


 現在は救急と消防によって、ダンジョンには取り込まれなかった生徒たちの救助がされていた。


 砂ぼこりにまみれ、時には怪我さえも負って救助される高校生たちの姿は痛ましいものがある。周囲には野次馬までが集まってきており、彼らは突然の非現実的な光景にスマホのカメラを構えていた。


 救助された高校生たちによると彼らに魔力はないらしい。ということは、ダンジョンに取りこまれたのは魔力がある生徒たちのようだ。


 その情報がはっきりとしてからは、救助する側も念のために魔力がない人間たちが当たっている。


 すでにダンジョンは落ち着いているようだが、何があるのか分からないのがダンジョンだ。魔力がない者のみが救助に当たっていたのは、救助する側がダンジョンの変化に飲み込まれないようにするためである。


「メノウ!」


 消防の人間に保護されたばかりのヨルは、かけてもらった毛布をすらも投げ出してメノウに向かって走ってきた。顔見知りの無事にフブキもメノウもほっとしたが、ヨルは自分が悪かったのだと泣き叫ぶ。


「イチズとスズさんが飲み込まれた!!たぶん、ヒビナのせいなんだ!!ヒビナのせいで二人が……私が二人の側にいたのに……私は助けられなくて」


 ヨルは何も悪くはないではないか、とフブキは思った。彼女は魔力がないからダンジョンに取り込まれなかっただけのことだ。


 それでも責任感の強さから、ヨルは自分が悪いのだと追い詰められてしまっている。このまま友人たちが傷つけば、ヨルはさらに傷つくであろう。


 崩れ落ちそうになったヨルを支えたのは、彼女を救助した消防隊員であった。彼は力なく泣いているヨルを抱き上げて、フブキたちに会釈をしてから救急車の方に彼女を運んでいく。後姿をよく見れば、ヨルの足からは血がだらだらと流れていた。


 足を引きずるそのヨルの姿は痛ましいが、それを押してでも友人の行方をメノウたちに伝えたかったのだろう。彼らならば、何とかしてくれると信じて。


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