第30話予想外のいかがわしい人気作



「よし、こっちはアップロードしてっと。でもって、こっちは……。どうしよう」


 イチズは、秘密裏に作っていた画像のファイルをクリックした。


 そこから現れたのは、メノウが映った画像だ。画像のなかのメノウは、髪をかき上げたり、シャツを脱ごうとしたり、ズボンのチャックに手を伸ばしていたりしていた。


 なお、ヨルの声は消した。フブキの手などは、映り込む前に画像を切った。別の素材からちょうど良さそうなものを繋いでいけば、外に流出できない妙にいかがわしい映像が完成してしまったのだ。


 幼気な顔を見せるくせに、その流し目の怪しさ。少年の細い指が自らの衣類をはだけさせるという背徳感も合わさって、直視するのも恥ずかしい映像と化していた。


 ファイル名は『メノウ十五歳。まだ全部は脱げないの』だった。


 深夜に思いついたタイトルは目に見えるところには残してはいけない、という典型例だ。事実、これを製作は深夜のことだった。必要な動画を作ってから「こんなの作れるなぁ」という考えから、思いのほか力を入れて作ってしまったのだ。


「しかも……ヨルに送っているし」


 凄いものが出来た。これは芸術だから誰かにも見せなければならない。


 という使命感に、当時のイチズは燃えていたのだ。俗に言うところの深夜テンションである。勢いのままにイチズは、ヨルに画像を送った。


 ヨルからは、すぐに返事が返ってきた。


『やばい。立たないはずのものが立ち上がった!従兄弟たちに送っておいた』


 こうしてメノウの画像は、スズとヨルの一族に流出した。どうしてこうなったとメノウは頭を抱える。深夜テンションが一番悪い。


 翌朝になったら、落ち着いたらしいヨルからは再びメッセージが届いていた。


『今更だけど……この動画って、青少年保護法に引っかからない?』


 はだけていないから大丈夫、とイチズは信じたい。


 この動画は淫美にしようとしているから、こんなに色っぽく見えているだけなのだ。露出度だけならば、水着の方が上だ。


 イチズは、そんなふうに思うことにした。それに、動画は知り合いにしか送っていない。流出することはありえないであろう。


「さて……こっちの健全な方の画像はどうかな」


 メノウの自己紹介とダンジョン警察の面々が映った動画の反応を確認する。すでに結構な数のコメントがつけられており、イチズはそれに目を通していった。


『中学生って、ホント?今どきの中学生って背が高くね』

『大きいやつはあれぐらいだぞ。俺の兄ちゃんもあんな感じだった。近所の人に、お下がりをもらってもらえないパターン』

『ダンジョン警察って、ゆるそうだな……』

『国家公務員って、地方にいるの?』

『いるって。全国規模で転勤させられるぞ』

『こいつらって、頭の良い脳筋集団だよな』

『冒険者なんて、基本的には脳筋』

『カスミって……。ダンジョンの地図の無償化の件に関わった人だよな。今はダンジョン警察やっていたのかよ。年取ったな』

『高校教師じゃなかったっけ?』

『学校に脅迫状が届いたから、教師は辞めたとは聞いていた』

『泉メノウ本人っていうのは確定か』

『年齢が合わないと言っていた奴らもいたが、これで色々とはっきりするな』

『過去の泉コクヨウと今の泉メノウの写真を並べると結構似てるぞ。コクヨウも背が高い』

『当時のコクヨウが、まだ伸びていますって発言してたって。……どんだけ伸びるねん』

『二人とも美形。ただし、使い所に困るほど長身』

『なんかさ……。友達の親戚の親戚から、こんなのがまわってきたらしい』


 コメントを読んでいた手が、ぴたりと止まった。イチズは、嫌な予感がした。目をそらしたいと思ったが、動画を作ってしまったという責任がある。


 イチズは。震える指で貼り付けられているURLをクリックした。


 現れたのは、イチズが制作した『メノウ十五歳。まだ全部は脱げないの』だった。画面のなかで幼気な色香を放つメノウに、イチズは悲鳴を上げる。


「止めてぇ!出来心だったの!!」


 自分ではネットにあげてないというのに、廻り廻って自分のチャンネルにURLが貼られてしまっている。しかも、コメントで『メノウファンは絶対に見た方が良い。抜ける』だなんて煽っている人間までいた。


「抜けないって!あんなのでは、現代人は抜けない!!」


 女子高生が見つけてしまうぐらいには、この世はお手軽に刺激を入手できる。それに比べたら、イチズの作った画像など足元にも及ばないであろう。

 

 だというのにコメントだけが『エロい』『合法の児童ポ』などと煽っている。面白半分なのだろうが、止めて欲しい。伸びていく回覧数がいたたまれなかった。



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