第28話殺人は死すべき罪
「関節ぐらいは入れてやればいいのに。お前だって、冒険者なんだから脱臼ぐらいは何とでも処置できるだろ」
ヒビナは去った後に、ウミに声をかけたのはコクヨウであった。
ウミと幼馴染のコクヨウは、話題になっている泉メノウの実兄である。その容姿は、弟と同じく美しい。
若い時から冒険者として研鑽を摘んできただけあって肉体はたくましいが、それを感じさせない。それどころか、儚さすら感じさせるのであった。
幽霊のようだ、とウミはいつも思っている。
ウミとコクヨウは、同じ学校で高校時代を過ごした。コクヨウの弟のメノウの事も知っていて、彼の両親の生前さえもウミの記憶に残っていた。
コクヨウが高校時代にちょっとした有名人になったのは、主にメディアの演出の影響が大きい。美しい少年が最強の冒険者というのは、実にそそられる人寄せパンダになった。
両親が殺されて、メノウが誘拐されるまでは。
自分が目立ったことによって、家族を不幸にしてしまったのではないかとコクヨウは嘆いた。そのときのヨルは、何もすることが出来なかった。
しかし、彼の両親の葬儀のことは酷く覚えている。
コクヨウは、ヨルの背中に隠れていたスズを見て顔をそらした。幼馴染の家族は無事で、自分の家族が誰もいなくなったことを悔しく思ったのだろう。そして、そんなことを考えてしまった自分が憎たらしかったに違いない。
ウミは、家族を失ったことで歪んでいく幼馴染になりも出来なかった。
残りの高校時代を抜け殻のようにコクヨウは過ごして、学校卒業後は冒険者一本で食べていくことを決心する。コクヨウが元より強い冒険者で、それ一本で稼ぐことは難しくはなかった。
そして、コクヨウは誘拐された弟を探す活動に身を投じることになる。メノウのように姿を消した子供は少なからずおり、その家族と手を取って自分たちの家族を探して欲しいと様々な機関に嘆願して回った
しかし、警察などが探し回っても誘拐された子供たちは見つからない。国外に売られてしまった可能性があると聞いた時はコクヨウは呆然としたが、家族を求める仲間たちのおかげであきらめずに奮闘することができた。
ウミは、鬼気迫る様子で家族を探すコクヨウを怖いと思った。コクヨウは、自分の家族を奪った全てを怨んでいる。
最近になって、事件に大きく動きがあった。国外ではあるが、メノウと一部の子供たちが発見されたのだ。
彼らは貧困国で冒険者となっており、悪しき組織の手先になっていた。そして、彼らの目は獣のようだったという。
彼らは庇護してもらう大人を知らず、常に他人を警戒していたのだ。そのなかで、メノウは特に酷い状態だった。彼は強い冒険者であり、それに期待した組織の大人たちが悪人になるための英才教育を施していた。
メノウは、銃を扱えていた。
メノウはダンジョンの内外で何人も殺して、立派な殺人者になっていた。
それは両親を殺されたコクヨウにとっては耐えきれないものであり、メノウを拒絶するには十分な理由であった。コクヨウは、メノウを否定した。
そして、メノウを殺しかけた。
コクヨウは、両親を殺した殺人犯に向けるべき感情を弟に向けてしまっているのである。ヨルは、幼馴染として止めるべきだった。
だが、彼の両親の葬式のときを思えば何も言えなくなってしまうのだ。
他人の家族を羨み、嫉妬し、そんな自分に失望していた。
そんな幼馴染の姿を二度と見たくはないが故に、ウミはメノウの死を望む。コクヨウの地獄を一番近くで見てきたのはウミであり、それと同時に助けられなかったことに罪悪感を感じていたからである。
自分の弟が人を殺したという事実から逃げるコクヨウと同じように、ウミは苦しむ幼馴染から逃げたくてどうしようもなかったのだ。
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