第24話いかがわしい撮影
いかがわしい。
実に、いかがわしい。
「メノウ君は、中学生なんだね。少し固くなっているけど緊張しているのかな。暑かったら脱いでいいからね」
イチズのスマホをかまえたヨルの質問は、なんだかおかしな雰囲気を漂わせていた。どこぞの年齢指定が入っている映像のオープニングのようだ。
それに気がついてはいないメノウは「君はつけなくていいですよ」と笑っている。
いかがわしさに気がつかない稚さに、イチズはハラハラしていた。フブキはイチズとヨルに気をつけろと言ったが、メノウも大概だ。
いつか悪い人間に捕まって、ぺろりと食べられてしまわないか不安である。フブキには、これまで以上にメノウに目を光らせて欲しい。
「特技は何かな?」
「ダンジョンでは、髪の毛を操って攻撃しています。これでも魔法使い型です。えっと、近距離でも遠距離でも平気です」
「枝毛のない綺麗な髪だね。ちょっと髪をかき上げてみて。次は首筋も見せてみようか。ところで、君のハジメテはいつなのかな?」
あまりにも質問が危うくなってきたので、イチズはヨルからスマホを取り上げた。フブキは、メノウの口を掌でふさいでいる。
「幼気な子供に何を聞こうとしているの!」
ハジメテと言っていたが、何の経験だとヨルに問い詰めたい。イチズの想像通りだとしたら、いかがわを通り越してハレンチだ。
イチズは、年上として倫理観の欠ける質問をするなとヨルに詰め寄った。ヨルは、ニヤニヤするばかりである。
「初めてダンジョンに潜った年齢を聞いただけだよ。むっつりなイチズは、それこそ十五歳のメノウ君に何を思ったのかな?」
ヨルは、セクハラをしている中年オヤジのような顔をしている。先程の質問には明らかにいやらしく聞こえるような意図があった。
フブキはそれを感じ取ったらしく「ああいうことを聞くような人間には近づくな。近づくとしても周りに相談してからにしろ」とメノウに指導をしていた。
「せっかく質問コーナーを面白くしようとしたのに。ほら、ここにはお姉さんたちしかいないから、少しだけ脱いでみない。そのシャツのボタンをゆっくりと外して……。恥ずかしくないからね」
メノウが素直に従おうとしたので、フブキがすかさずシャツの首元をがしっとつかんだ。その素早い動きは、オヤジと化したヨルでさえ驚かせる。
「女相手だろうが男相手だろうが、人前では脱ぐな。いいか、絶対に脱ぐな」
フブキの指導にも熱が入るが、メノウにはあまり伝わっていない。彼は美しい顔で、不思議そうな表情をするばかりだ。
イチズは、どきりとした。中学生と知ってしまえば、メノウの仕草のどれもこれもが可愛らしい。身長こそ高いが、元気な姿は可愛い子犬のようでもある。
認めたくないが、ヒビナと同じタイプである。つまり、イチズの好みだ。
「じゃあ、ズボンのファスナーだけ降ろしてみて。格好良く撮ってあげるから。大丈夫。ちょとしたグラビアみたいなものだから」
ヨルの指示は、何一つ大丈夫ではない。
むしろ、駄目なところしかない。
「ここからは、私が質問するから!お願いだから、チャック下げようとしないで!!」
イチズは、ヨルの口をふさいだ。彼女を放っておいたら、メノウが汚されてしまう。
それだけは、年上として防がなくてはならない。フブキもメノウの両手を拘束して、彼が言葉の通りにチャックを下げようとしているのを止めていた。
このままでは、イチズのチャンネルがヨルの欲望に汚されてしまう。健全な方向に質問を正しべく、イチズは咳払いをした。
そのときに頭をかすめたのは、泉コクヨウのことである。配信を見る視聴者が求めるのは、間違いなく泉コクヨウのことだろう。
眼の前の泉メノウと泉コクヨウは、本当に兄弟であるのか。二人の今の関係性は……。
視聴者の求めるものは手に取るように分かるが、メノウの質問することは出来なかった。
彼は、事件の被害者でもあるのだ。
両親を殺されて、自身は拐われた。世間が求めるものは、その事件の成れの果てだ。
メノウの心情を慮れば、避けた方がよいに決まっている。
イチズはとびきりの笑顔を浮かべて、メノウに問いかけた。
「ダンジョン警察の仕事は大変そうだけど、休憩時間には何をやっているの?」
メノウ自身の質問でなく、ダンジョン警察としての質問をすることにした。視聴者の見たいものなど関係はない。イチズは、メノウを傷付けたくなかった。
「フブキさんと一緒にお弁当を食べます。フブキさんは、早起きしてキャラ年を作ってくれますよ」
キャラ年は、キャラ弁の間違いだろう。イチズとヨルの視線は、三十代のフブキに向かっていた。
「……誰と住んでいるのかな?」
「フブキさんです。フブキさんは独身なので、僕とモルモットと住んでいます。モルモットは非常食ではないそうです」
独身男性が、身寄りがない少年と二人っきりで住んでいる。いかがわしい匂いがした。
「フブキさんは、寝言がうるさいですよ。寝相も悪くてベットから落ちてることも多いです」
イチズとヨルは、互いに頷きあった。
これは、間違いない。
「ヨル、青少年保護育成条例みたいのがあったよね。どこに連絡すれば良いのかわからないけど……。とりあえず、成人男性が男の子を囲ってキャラ弁で手懐けているって保健所に通報しよう」
女子高生たちの判断に、フブキは「なんで、そうなる!」と叫ぶしかなかった。
その後、フブキはメノウの後見人であり、付き合いこそ浅いが親戚筋であることを丁寧に分かりやすく説明することになった。
かくして、幼児性愛者として通報されることを免れたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます