第19話ダンジョンの新たな謎
ダンジョンコアの情報は、一般公開されていない。何故ならば、複数のダンジョンコアを飲み込んだ人間がダンジョンとなるからである。
ただし、ダンジョンの全てが変質した人間というわけではない。
ダンジョンは自然発生するのが一派的である。理由は解明されていないが、普通のダンジョンの魔物の強さは一定である。第二階層の魔物の強さは、北海道であろうともポルトガルであろうとも変わりがない。
だが、人が変化したダンジョンでは、どの階層であっても出現するモンスターの強さはランダムである。本来ならば安全なはずの第一階層にも、モンスターが出現するのだ。
『ダンジョンの常識が通じないダンジョン』そのように呼称する人間がいるほど、通常ダンジョンとはかけ離れた存在なのである。
人が変化したダンジョンは、自身が恐れているものをモンスターとして恐れているものを出現させる。冒険者は他人のトラウマを共有することになり、人によっては精神が削られる。
普通の冒険者では、攻略は危険すぎる。その為、国試験を合格した一部の冒険者しか探索は許可されない
今のところ人がダンジョンになった事例は少なく、発生したダンジョンは国連の管理下にある。そして、ダンジョンコアの存在も関係者のみに開示された情報だった。
フブキ、メノウ、ユウダチ、カスミの四人はダンジョンコアの秘密を知っている人間たちだ。人から生まれたダンジョンに潜る資格も持っている。
「兄さんは、ダンジョンコアの存在を知っている。心の弱い兄さんは、自分ではダンジョンコアを飲まないはず……。だから、近い内に誰かがダンジョンになるはず。幸福になれるチャンスだよ」
惨めなものを見ることが出来る。
そんなことを暗に告げて、メノウはボスの部屋を出た。
その背中を見送ったユウダチは、苛立ちを覚える。悟ったようなメノウの態度が気に入らなかったのだ。
メノウは反抗期なのだと理解しているが、他人を見下すような態度は嫌いだ。この世の人間全てよりも自分は勝っているのだ、という態度は好きになれない。
「あいつは、何を考えているんだよ。まったく分からん。自分よりも惨めなものを見て幸福になるって言ってるんだぞ」
カスミだって、自分と同じ意見だろう。ユウダチは、そう思って話をふった。しかし、彼女の意見は想定外のものだった。
「珍しくもないだろう。ユウダチだって、クラスメイトのテストの点数を見て『あいつより、マシだ』と思ったりするはずだ。そんなものだ」
言われてみれば、それぐらいならユウダチにだって心当たりがある。テストの点数なんて、その最もたるものだ。
「そんな簡単な事を難しく言うなよな。やっぱり、あいつは日本語は変だ」
カスミは、文句を言うユウダチをいさめた。
「落ち着きなさいって。海外のスラムで育ったメノウにとっては、自分が他人よりもマシな環境にいると思いこむのは必要なことだったはずだ。聖人君子でいられる事も出来る私達は、恵まれている環境にいるんだ」
カスミの説明に、ユウダチは無言になった。現在ネットで騒がれているように泉メノウは、泉コクヨウの実弟である。
幼少期に両親を殺され、誘拐されたメノウは貧困国に売り飛ばされた。貧困国ではダンジョンでの収集できるアイテムを買い叩き、裕福な国に売るというビジネスが形成されている。
しかし、一部の貧困国では冒険者になれる人材が少ないのだ。ダンジョンで行動するには魔力があることが最低条件である。
だが、その人材の比率は国によって偏りがあった。
ダンジョンが世界に現れた当初から、魔力の有無については知られていた。先進国なら魔力があるかないかは大きな問題にならなかったが、貧困国の人間にとっては資産を手に入れたも同意義である。
なにせ、ダンジョンに入り一儲けが出来ることが出来るようになったのだ。それは貧しい人間が新たなビジネスチャンスを得て、貧困を脱却する事と同意義だった。
ダンジョンでアイテムを得ることが可能になった彼らは、自分たちは世界中のダンジョンに通用することに気がついた。故に、魔力を持った人材が海外に流出したのである。
そのことに国が気がついた時には、魔力を持った人材は多くが海外に流出してしまった。魔力を持った人々は、豊かな地域を目指したのだ。
これに慌てたのは、貧しい人間たちを使って商売をしていた悪どい人間たちである。そして、彼らはとある方法を考えた。
他の国から、魔力を持つ可能性が高い幼児をさらう。そして、冒険者として育てるのだ。ダンジョンでアイテムを収集するだけの存在として。
メノウが誘拐された時代は、多くの子供が様々な国で消えた。消えた子供の大半は、小遣い稼ぎが目的の若者たちにされて誘拐されたのである。
彼らの手によって誘拐された子どもたちは、秘密裏に冒険者を求めた国や組織に売られていった。そして、劣悪な環境で育てられたのである。
メノウが育った場所には、様々な理由で自国にいられなくなった人間も大勢いたようだ。そのせいもあって、メノウは多様な国の言葉を覚えている。だが、その多くが品のない言葉いわゆるスラングだ。
フブキは、日本語だけでもまともなものを覚えさせようとしてる。そのおかげで、メノウの日本語だけは丁寧だ。
「くそ、なんか調子が崩れるんだよな。……あと、姐さん。ボスを倒したメノウが、部屋の外に出ていったよな」
ダンジョンのボスは、倒した人間が退出することで復活するようになっている。ユウダチとカスミが振り返れば、そこには大型のサル形のボスがいた。
鋭い牙が覗く口からは涎をたらしており、そのような獣は大抵が凶暴性を見せつけるはずだ。しかし、このサルのボスの目は虚ろだった。まるで、麻薬の常用している人間のようだ。
ちっ、とカスミは舌打ちをする。
大人の女性らしからぬ仕草だったが、そうしなければやってられない程にボスの姿は気に食わない。
「相変わらず、ボスの姿は悪趣味だな。さっさと倒して、帰ってしまうぞ。十分以内に倒せなければ、ペナルティーとして五キロのスポーツドリンクを担いで百キロマラソンだ!」
ボスと戦闘よりも恐ろしいペナルティーに、ユウダチは恐れおののいた。カスミは言ったことを必ず実行する。そうやって、彼女はダンジョンの地図に関する経済を変えてしまった人間であるのからだ。
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