第4話 ご当地ダンジョン
「沖縄から来たんだけど、あっちのダンジョンって行き帰りの方が大変だったりするの。時期によってはハブがでるし、自然保護地区のなかにダンジョンが出来てるし」
イチズがインタビューしたのは、沖縄出身の女性たちだった。顔は隠したいという希望があったので、イチズカメラを操作してモザイクモードのボタンを押した。これで人の顔に自動的にモザイクがかかるので、生配信でも安心だ。高価かっただけに、高性能なカメラだ。
沖縄出身の女性たちも話のおかげで、コメントの勢いは加速する。
『ハブって、下手するとモンスターよりやばくないか?』
『安心しろ。どっちもやばい』
『自然保護地区の中かぁ。どっかの国で、ダンジョンが街の景観を壊すから取り壊そうとしたってニュースやってなかったっけ』
『フランスとポルトガル。壊れないから外壁に色を塗ったら、一晩で絵具が落ちたらしいぞ』
コメント覧は、けっこうな盛り上がりをみせていた。どこだって、ご当地ネタというのは強いものである。
全国各地のダンジョン巡りの企画をやってみたら、人気が出るかもしれない。先駆者がいるジャンルではあるが、ご当地ならではの困難を取材するのは楽しそうだ。だが、ダンジョンのモンスターよりも外部の環境のほうが厳しいかもしれない。
北海道では、命からがらダンジョンから帰ってきたパーティが帰り道にヒグマに襲われて全滅したこともあるという。あくまで噂でしかないが、現実味があるのが北海道の怖いところだ。
「あと、沖縄には男禁止のダンジョンもあるの。神様が宿っていて、元から男性は入っちゃ行けなかったのに政府の人間がズカズカと入って近隣住民と問題を起こしたって……」
沖縄出身の女性が、急に口を閉ざした。なにか問題になりそう事を口走ったのかとイチズは考えたが、発言には問題はなかったはずだ。
沖縄出身の女性二人は、冒険者で賑わう第一階層の壁側を指差す。
「噂をすれば、政府の犬だよ」
イチズがなんの気無しにカメラを向ければ、そこには二人組の男性がいた。
三十代の男と二十代前半の男だ。
いや、片方は二十歳未満かもしれない。
若い男の方は、どこかの会社で働いているとは思えないぐらいに髪が長い。足の膝裏まで伸ばされており、女性であっても滅多に見ない長さである。それが縛られてもいないのだから、歩くたびにふわふわと揺れている。
人によってはダンジョンを舐めていると怒り出す髪型かもしれないが、その一方で装備には一切の隙を見せていなかった。彼らの実力は不明だが、その気になれば到達さえも困難な第五階層まで行けそうな装備である。
『ダンジョン警察かぁ。しっかり、手錠を持ってるし。胸にバッチつけてるから、間違いないな』
『若い方は、手錠もなにもないぞ』
『そっちは協力者だろ。ダンジョン警察の方は国家公務員だけど協力者は公務員じゃないらしいぞ。あくまで腕利きの冒険者。ダンジョン警察のサポートだ。バイトみたいなもんなのか?』
ダンジョン警察は、文字通りダンジョン内部の犯罪を取り締まる存在だ。
どこの国にも名目上は設置されていることになっているが、他国ではダンジョンが危ない取引に使われていこともある。それを鑑みれば、ダンジョン警察の貢献度は国によってまちまちということだろう。
日本はトップクラスにダンジョンの知安が良い国と知られているが、それでも犯罪抑止ためにも多くのダンジョン警察が睨みをきかせていた。
『このダンジョンって、治安いいよな』
『治安よくても警備ぐらいするだろ。モンスターにやられた人間の回収だって、仕事らしいし』
『てか、あいつらダンジョンを舐めてるだろ。髪な長すぎ』
ダンジョン警備への意見やコメントが流れていくのを見ながら、イチズはにやりと笑った。
ヒビナとのカップルチャンネルをお終いにしてしまったせいで、イチズのチャンネルは華やかさを失った。
第一階層でバラエティ番組の真似事をしか出来なくなり、それにともなって登録者は減り続けている。別のパーティに参加したら良いかもしれないが、そこで運営しているチャンネルの動画を撮ることになるのは目に見えていた。
イチズは、あくまで自分のチャンネルを盛り上げたいのである。別のチャンネルでは意味がないのだ。だからこそ、自分一人でも出来る企画を作り出したい。
「今からダンジョン警察のお仕事を撮影しちゃいますよ。普段は秘密のベールに包まれている姿をすぱっと映しちゃいましょう」
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