第3話 賢者になった日
イノシシ型のスライムを撃破した俺。
その時、木々に隠れる人影を見逃さなかった。
……む。
あの怪しい男はなんだ?
近寄ると逃げるだろうし、ここは賢者スキルで分析してみよう。
「サーチアイ」
周囲にいる人間やモンスターなどの情報を分析する能力だ。対象が物陰に隠れていても感知できる優れスキル。
確認してみると木の陰には、やはり男がいた。
ん……どこかで見たような。
けど、男はこちらのスキルに気づいて背を向けて逃走した。……逃げたか。
「エイジさん、どうしたんですか?」
「んや、なんでもないよ、ファウスティナ。それより、さっきのイノシシスライムのせいで建物に被害が出た。直してあげよう」
「そういえば、修復できるんですよね」
「ああ、賢者のスキルでね。ただ、材料は必要だ」
この場合『木』のアイテムが10個は必要だ。
適当にその辺で伐採してくるか~と考えていると、アンジェリカが声を掛けてきた。
「あの、エイジさん。もしかして木が欲しいのですか?」
「そうなんだ。って、よく分かったね」
「木を見つめていたので」
「建物を直すのに必要でね」
「なら、ウチにあるので使ってください。兄がキコリでいっぱい木を採ってくるんです!」
よく見るとエンジェリカの家の横にはたくさんの木材があった。薪とかもある。へえ、お兄さんがいたとはね。
「いいのかい?」
「どうぞ。この村の為ならいくらでも使ってください」
木材を貰い俺は、壊れた民家を修復することに。
「では、遠慮なく」
「ところで、どうやって建物を直すんです?」
「良い質問だ、アンジェリカ。俺には賢者のスキルが備わっている」
「まあ! それは凄いです! 賢者といえば皇帝陛下に認められた者しかなれないという……」
子供の頃、俺は勉強熱心だった。
世界のあらゆる知識を取り入れ、神秘の魔法さえも興味をもった。だから、帝国の超難関試験を受けて合格……しなかった。
とてつもない挫折をして、無理だと思った。
あんな難しい試験を合格できるわけがない!
なんでエルフ語とかドワーフ語が出てくるんだ。無理無理!
だから俺は何度も落ちて、親父にはポンコツ扱いすら受けていた。でも、ファウスティナが俺を支えてくれた。
ある時、試験合格の為にファウスティナが俺の許嫁になってくれることになった。
エルフである彼女と結婚を約束すれば、エルフ語が学習できるし、なんなら一生をかけて教えてもらえるという保証がつくから『言語免除』となる。
だから俺はなんとか人間の言語で合格できたんだ。
今の俺があるのはファウスティナのおかげだ。
「じゃ、さっそく直すよ。離れていて」
みんなを下がらせ、俺は被害にあった家の前に立った。
イノシシスライムが突進してきたのだろう、大穴があいている。この程度なら木材10個で事足りる。
魔力を流して俺は『クラフトレシピ』を発動。さっそく木材を消費した。
穴が空いている部分に手を伸ばす。
「おぉ!!」「エイジさんがまた何かした!」「壁が綺麗に直ってる!」「なんだこの魔法!」「奇跡かよ!!」「嘘だろ! 私の家も直して欲しいな」「賢者ってマジすげぇな!」
仕事を終えると周囲が騒然となった。
そこまで凄いと言われるとは思わなかった。
今まで領地では活躍する機会もなく過ごしていた。
でも、こうして外に出れば人の役に立てるんだと俺は知った。……そうか、この力は人の為になるんだ。
「さすがエイジさんです!」
ファウスティナが俺の手を握ってきた。
「いや、俺は誰かの助けになればなと」
「やっぱりエイジさんを選んで正解でした」
「そう言ってくれて嬉しいよ、ファウスティナ」
見つめ合っているとアンジェリカが咳払いした。
「エイジさん、そろそろお腹が空いたでしょう。ご飯にしましょ」
「そ、そうだな。うん」
戦ったりして魔力を使い過ぎた。空腹で死にそうだ。食事をしよう。
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