第3話 強襲
明日喪と園三が転校してきた次の日の放課後、明日喪はうきうきとした表情を滲ませながら、喋っているトーカたちに近づいてく。
「トーカちゃん流々ちゃん園三ちゃん!僕は今日も放課後に
「行かない」
「行きたくない」
「行きません」
「そこをなんとか!いいじゃんご飯食べに行こうよ!」
みっともなく女子高生3人組においおいと泣きつく明日喪。まるでプライドとかはなさそうだ。
「昨日は行ってくれたじゃん!ねぇ流々ちゃん!」
「昨日はおなか減ってたんだよ」
「減らしてよ!」
「無茶言わないでよ」
「お願いだから行こうよぉ...クラスの皆は僕のこと冷たい目で見てくるしさぁ...」
「そりゃあ、男女問わずクラス全員をナンパしたらそうなるよ」
「今は隣のクラスにチャレンジしてるよ!」
「結果は?」
「全敗...」
明日喪の顔がだんだん歪んでいき、泣きそうな顔になっていく。
「あの...私でよければ...ご飯行ってもいいですけど...」
「ほんとにぃ!?いいよいいよ、一緒に行こうよ!」
「まぁ...あまりに哀れなので」
「哀れに思われてたっ!?まぁいいよ!行こう行こう!」
「待ったぁ!」
テンションが高まっている明日喪に待ったをかけたのは、トーカだった。
「園三ちゃんを変態と二人きりにさせてはおけない、私も行く」
「トーカちゃんが行くなら私も行くー」
「rarely!?じゃあみんなで行こうよ!レッツサイ〇リヤ!」
「店名を出すなぁ!訴えられる!」
「誰に!?」
「トーカちゃん、ドリンクバーのコーラにジェラートを入れてコーラフロートにするのはどうかと思うよ、てか昨日も似たようなことしてたし」
「いいでしょ、甘いの好きなんだってば」
「トーカちゃんの甘党はそこらのやわなJKの比じゃないからね、私はそんなトーカちゃんが誇らしいよ」
「それは誇れることなんですか...?」
「多分誇れることじゃないから大丈夫だよ」
4人は席に座って談笑している。それぞれの前にはドリンクだったり料理だったりが置かれていて、まさに学校帰りといった感じだ。
しかし実態は、コーラにジェラートを入れてコーラフロートと言い張っているJKが一人、マルゲリータピザに常軌を逸した量のホットソースをかけている水色髪が一人、古代ローマ人みたいな服装をしているJKが一人と、なかなか愉快なテーブルであった。
愉快過ぎて、周りからの視線を集めている。
「それよりアンタ、私のこれにツッコむなら流々のピザにもなんか言いなさいよ」
「ホットソースがいっぱいかけたくなる気持ちは誰だってあるよ、流々ちゃんはその気持ちが人より強いだけさ」
「チーズが見えなくなるくらいかけるのは気持ちが強すぎるでしょうが、ホットソースへの好感度どれだけ高いのよ」
「私は辛い物結構好きなんだよ」
「知ってる、何年流々のその偏食っぷりを見てきたと思ってんのよ」
「トーカちゃんの末は糖尿病かぁ...南無南無」
「それを言うなら流々は高血圧症でしょ」
「入院する時は一緒だね...」
「うん...」
「なんで僕の目の前でやたらと物騒なガールズラブが繰り広げられてるの?」
「楽しそうですね、とっても」
「確かに本人たちは楽しそうだけども!会話の中身はただの生活習慣病の話だからね!?」
「それもまた人生だよ明日喪くん」
「どういうこと!?」
本来ツッコミ役であるトーカがボケにまわり、なぜか明日喪が慣れないツッコミを担当する羽目になったことのせいかは知らないが、明日喪はぐったりしている。ホットソースだらけのピザにさらにオリーブオイルをかけ始めた流々にツッコむことすらしないほどに。
「なんでイマドキJKはこんなに偏食が多いんだよぉ...僕は皆の将来が心配だよ...主に健康面が」
「太く短く生きるのがイマドキJKだよ」
と、ピザを食べ終わった流々の弁。
山ほどソースやオリーブオイルをかけていたはずなのに、口の周りや皿はとても綺麗で、ソースをこぼしたような形跡はなかった。
「まぁ、太く短くっていうかなんというか...体は太くなりそうだけどね」
「トーカちゃん、こいつ生意気なこと言い始めたよ?図に乗ってない?」
「どうする流々ちゃん、処す?処す?」
一瞬トーカと流々の顔が浮世絵のようになった気がしたが、まぁ気のせいだ。
「やめてよ!?謝るから!」
「許さない」
「あの...殺すのはやめてあげてください」
「大丈夫だよ、殺しはしないから」
「なら大丈夫ですね」
「何も大丈夫じゃないけど!?やめて静かにナイフ取り出さないで!それハンバーグとか切るやつだから!」
「肉を切ることには変わらないし」
「やめてやめて!いやぁぁぁぁ!」
ナイフを振り上げるトーカ、叫び倒している明日喪、笑顔で眺めているほか二人、やっぱり楽しいテーブルだ。
「...とまぁ冗談はさておき」
「冗談だった...よかった...」
「4分の1はね」
「4分の3本気なの!?」
トーカはナイフを下げ、何も言わずほほ笑みながら、一気にコーラフロートを飲み干す。明日喪はそれを見て「何その笑顔!怖いよトーカちゃん!」なんて抜かしている。
「あーあ、トーカちゃんにこの笑顔をさせた人はもう...南無阿弥陀仏」
「僕にこれから何が起ころうとしてるの!?怖い怖い助けて園三ちゃん!」
「あなたがまいた種でしょう、あなたが責任とってください。ちなみに私はトーカちゃんの味方です」
「圧倒的四面楚歌!」
涙目になりながら、園三にすり寄ろうとする明日喪を、彼女はすっかり慣れた様子で冷たくあしらう。園三はすでに、明日喪からのセクハラの対応を完全に心得ているようだ。これはトーカや流々をもしのぐだろう。
「なんか園三ちゃん冷たくない!?初めて会った時はもっとちゃんと取り合ってくれたでしょ!」
「これが慣れです、私は結構物事に慣れるの早いんですよ」
「慣れって怖いね」
「ねー」
向かいの席のトーカと流々は、完全に他人事のようにしている。
「そろそろ出る?」
「うーん、じゃあ出よっか、園三ちゃんとその他、行くよー」
「はーい」
「えっその他!?僕その他!?」
4人はそれぞれ自分の食べたもの分の金額を払って店を出る、会計中も明日喪はその他扱いについてワーワー言っていたが、園三が「静かにしてください」と一言言うと静まった。やっぱり手馴れている。
さて、会計も終えると一行は店を出て、帰るために夕暮れの道を歩いている。不思議と、この道には4人以外誰もいない。
「明日はね、記念すべき土曜日なんだ!というわけで明日はみんなで一日中遊ぼうと思うんだけどどうかな!?」
「やだ」「嫌」「嫌です」
「なんで!?」
「あなたは自分にセクハラしてくる人と休日遊びたいと思うんですか?」
「休日どころか毎日遊びたいと思うよ!ウェルカム!」
「すみません私が悪かったです...すいません」
園三は、まるで幼児向けアニメのようにわざとらしく手を目に当ててめそめそと泣くふりをした。流々はそれをみていたずらっぽく笑い。
「あーあ、明日喪くんが園三ちゃん泣かしたー」
「えっ泣いちゃった!?ごめんごめん!!!」
「...冗談のつもりだったのにそんなに焦りますか?」
「そうだよ明日喪くん」
「女の子が泣いてるのを見逃せる僕じゃないからね、どんないかがわしい手を使ってでも泣き止ませてみせるさ」
「うわぁ...トーカちゃん救急車呼んで」
「OK、救急車呼んどいた」
「なぜ!?」
「だってさすがに放置してたら命が危ないし...」
「私たちにだってそれくらいの優しさはあるよー、それに罪が重くなるのは御免だし」
「僕今から半殺しにされるの!?いやだまだ顕現してから一回も誰かとエッチしてない!」
「しなくていい、ハイクを詠め」
指を鳴らしながら徐々に近づくトーカ、普段ならもうすぐ明日喪に一発鉄拳がお見舞いされる...はずだが、トーカはその足を止めて、後ろを振り返った、明日喪も、トーカの後ろ、視線の先を見た。流々も、園三も。
別に、声をかけられたわけではない。
ただ、感じたのだ。そこにいると、そこに現れたと。
---おかっぱ頭の、女の子らしき何かが、現れたと。
顔は見えなかった。
逆光のせい、とも言い難い、まるで顔自体にぽっかり穴が開いてるかのように、深い洞になっているかのように、真っ黒に塗りつぶされていたのだ。
「...誰」
独り言のように、トーカはつぶやくが、返事は何も返ってこない。
それはただ、そこに佇んでいるだけだった。
「あの...」
園三が、声をかけようとした刹那。
「■■■■■■■■■!」
それは、誰の目にも止まらぬ速度で、跳ねた、そして、手を貫き手の形にし、正確無比に園三の腹部を狙う。きっと、地球上にこれを目で追える人間はいないだろう、そう、人間は。
「あっっっっ...ぶなかったぁ!セーフ!さすがの僕も冷や汗かいたよ!」
結論から言えば、その貫き手が園三の腹部を貫通することはなかった。手、いや、それの体全体が、空中で何かに張り付けられたかのように静止しているのだ。
見れば、明日喪がそれに向かって左手を伸ばしている。彼は額の汗を拭うと、ゆっくりと立ち上がり。
「ごめんね、君に恨みはないんだけど...ちょっと眠っててもらおうか」
明日喪は、人差し指と中指を少しだけ曲げて、戻す。そしてゆっくりとその子を地面に下ろすともう、眠ったように動かなくなっていた。
「はひ....」
へなへなと、力なくその場にへたり込む園三。茫然と明日喪を見ているトーカと流々、そして眠っているその子へ近づく明日喪。
「ごめんねみんな、僕ちょっと用事ができちゃったかも」
茫然としている皆へ、あっけらかんとした声でそう言う明日喪。
「じゃ、ちょっと先帰るね、よいしょっと」
明日喪はその子をお姫様抱っこの形で抱きかかえ、その場を去ろうとした。
その瞬間、園三の視界の端に、何か黒い物が移った。
何か、確証があったわけではない。しかし、彼女は反射的に叫んでいた。
「明日喪さん!危ないです!」
しかし、人間の反応速度では遅すぎた。
ざくり。
「かっ...は...?」
黒い物の正体は、槍だった。それはちょうど彼の胸を射抜き、貫通した。
不思議と、血は出ていない。
明日喪の視界が、黒に塗りつぶされていく。頭がガンガンと痛んで、何も考えられなくなってきた。全身から力が抜けて、自分が立っているのかすらわからない。
薄れゆく意識の中、明日喪は最後に思う。
---ああ、やっぱりお前だったのか。
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