二人に伝えること

「俺は美優のことが好きだ。二人の話を聞いてもそれは変わらない」


 夕方のファミレスの一角で、俺は白神と成田の二人に対してそう告げた。


 二人は真剣な表情で俺の話に耳を傾けてくれている。だから、俺も真剣になって俺の気持ちを二人に伝えなければいけない。


「美優は小さな時からずっと一緒にいた幼馴染だ。まあ白神も小学校一年生の時から一緒にいるから幼馴染みたいなもんだけど……それは今は一旦置いておいて。やっぱり高島美優って女の子は俺の中で特別な存在なんだ。アイドルだからとかっていうのは関係なくて……なんて言ったらいいんだろう……。傍にいるのが当たり前で、近くにいないことが全く想像できないんだよ」

「まあ……それはなんとなくあたしにもわかる。シュウと美優はセットって感じがする。少なくとも、昔からシュウと美優のことを知ってる人はそう感じると思う」


 俺の話を静かに肯定してくれる白神に心の中で感謝しながら、俺は続きを話していく。なんか、今口に出して「ありがとう」って伝えるのはちょっと違う気がしたんだ。


 そういうのは、全部話し終わってから伝えた方がいい。


「俺は無自覚だっただけで、小さい頃からずっと美優のことが好きだったんだと思う。じゃないと自分の時間も体力も使ってまで『助けになってあげたい』とかいっておせっかい焼かないよな……。今の今までそれに気づかないとか俺ってめちゃくちゃバカなんだけど、美優はそんな俺に好きって気持ちを伝えてくれて、俺を受け入れてくれてる」

「そうだな。申し訳ないが、恋愛関係においてシュウのことを評価したことはない。……好意を伝えている相手にこんなことを言うのもなんだが」


 いやあの、無表情でそういうこと言われるとちょっと怖いんですけど……。


「なんかごめん……」

「別に責めてはいない。どうか続きを話してほしい」


 成田に続きを促される。


 ……ちょっとビビっちゃったけど、ちゃんと言葉にして伝えないとな。うん。


「……だから、たぶん二人から何を言われても俺の一番は美優で変わらないと思う。美優と付き合い始めて、美優のことを助けてあげたいって気持ちは前よりも強くなったと思う。本当は美優はもう俺の助けなんて必要ないくらいしっかりしてるってわかってるんだけど、それでも何かしてあげたいって思うんだ」


 アイドルとして仕事をしている美優は、俺よりも一足も二足も先に社会に出て強く生きている。その美優のことをまだ社会にも出たことのないただの高校生の俺が手助けしてやれることなんて、本当のところはあんまりないんだと思う。


 それでも、仕事や生活のことで手助けしてあげられることがほとんど無いのだとしても、それなら今度は心の部分で支えてあげられたらいいと思うんだ。


 できるだけ美優の言うことを聞いてあげたいし、叶えてあげたい。ちょっと無理目のお願いとかでも、俺の手が届く範囲なら頑張って聞いてあげたい。


「美優っていうのは俺にとってそういう特別な女の子で……二人のことを、美優と同じところで考えられるかっていうと……ごめんけど、そんな自信はないんだ。二人に魅力がないわけじゃなくて、その……」


 二人の目をまっすぐに見つめながら俺の気持ちを伝える。


 二人のことは確かに大切な友達だと思っていたし、たぶん美優がいなかったら二人のうちどっちかと付き合ってただろうなって思うくらいには俺にとって全く不満のない女の子たちだ。


 それでもやっぱり、美優と同じようには考えられないっていうのも俺の中ではっきりとしている事実で……。


「シュウ……あたしたちは別に、美優と同じように扱って欲しいってわけじゃないんだよ? そんなの無理だっていうのはあたしも玲もわかってるから……」


 白神が眉を寄せて悲しそうな表情でそんなことを口にする。


 確かに白神も成田もそんな感じのことを言っていた。だからこそ俺は悩んでるんだ。悩んだんだ。


 単純に美優と別れて自分と付き合って欲しいって話ならまだ簡単だった。白神や成田たちとの関係は悪くなってしまうけど……それでも、そういう話なら断って終わりだったからだ。


 でも、今しているのはそういう話じゃなくて……二人とも、俺と美優の関係は継続したまま、そこに自分たちを加えて欲しいって話をしに来ている。普通恋人なんていうのは一対一の関係がスタンダードなのに、そこを一対三にしてくれって言いに来てるのだ。


 そんでもって俺の頭を悩ませる要因の一つは、その話を美優が既に知っていて、しかもある程度までは了承してるってことなんだ。


 そこまで話が回ってて、後は俺の気持ち次第ってここに送り出されて……二人の話を実際に聞いて。


 ……ある意味答えは最初から一つだったのかもしれない。だって俺を囲んでる女の子三人とも、俺の知らないところで話し合って一つの結論を出してるんだから。美優が怒ったって言ってたところを考えると、結構揉めたんだと思う。実際にどんな話し合いがあったかってところまでは美優は話してくれなかったけど。


 そんな話し合いの末に出た結論が既にあるのだ。だから、俺が伝えることも、結局はこういうことで。


「白神、成田。これから俺、一人の人間として結構最低なこと言うけど聞いてくれるか?」


 俺の言葉に、白神と成田はそれぞれ神妙な面持ちで頷いた。


「シュウ……シュウのどんな結論でも、とりあえずは一旦受け入れよう。とりあえずは、だが」

「怖いこと言わないで……」


 成田の普段より低い声音にちょっと情けない声が出てしまったけど、気を取り直して二人に伝える。俺の考え汚。俺の結論を。


「俺、美優が一番っていうのは変わらないけど……やっぱり二人のことも大事なんだ。今までの話の流れで何言ってんだこいつ? って思うかもしれないけど、この俺の気持ちも本当なんだ。二人の気持ちは素直に嬉しいんだよ。ただ、俺がどうしていいのかわからなかっただけで……」

「あたしたちもこんなこと伝えてシュウに迷惑かけてるってわかってるけど……でも!」

「白神……迷惑って思ってるわけじゃないんだ。二人のことは好きだし大事で、でも俺には美優がいて……なんだけど、三人の中ではもう結論みたいなのが出来上がってて……後は俺の気持ち一つってところでさ。こんなこと俺に決めさせてくるだなんて、三人とも俺に優しいのか厳しいのかわかんねぇよ……」


 俺の知らないところで三人で決めたものがあるのなら、俺はそれに従うのだってやぶさかじゃないのに。なんて考えが浮かんでしまう。


 けれどもやっぱり、それじゃダメなんだと思う。こういうのは当事者である人間が一人一人しっかり考えなきゃいけないんだと思う。逃げたらダメなんだ。


「……うん。俺は――美優のことが好きだけど、二人のことも好きだ。だから二人の言うことを受け入れようと思う。でも、申し訳ないんだけど……これだけは最初にはっきりと言っておきたい。俺が一番優先するのは美優だってことを。白神と成田のことはどうしても美優の次ってことになっちゃうけど……それでもいいなら――二人とも、俺と付き合ってください」


 そうして俺は、なんか言葉にするとめちゃくちゃ最低なことを口にしながら、二人に俺の思いを伝えたのだった。

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