七章 シュウ

俺の答えは

 正直に言って、俺だって男だから「女の子からモテたいな」って思ったことはある。口に出したことはないし別に本気で思ってたわけでもないけど、漫画とかを見ながら「こんなに女の子から好かれるとかいいよな」とか思ったことくらいある。


 でも現実的に考えてそんなハーレムラブコメ漫画みたいなこと起きるわけないし、そんなことよりも俺は美優との関係の方が大事だったからそこまで深く考えたこともなかった。


 けれども今から思い返せば、確かに白神はことあるごとに俺に「シュウもハーレム作りたいとか思うの?」とか「何人も女の子侍らせてる男の子ってすごいよねー。シュウもやってみたいとか思う?」とか、それっぽい話題を振られていたように思う。


 そういうのは決まって俺が漫画とかの話をしていた時の話だったから、漫画の話題の一環として俺に話をしてきただけだと思っていたのだ。


 でも……たぶん、白神は白神なりに俺に「ハーレム作ってもいいんだよ」って伝えてきてたんだろうな。その白神の作戦は全く俺には効いていなかったわけだけど……ずっと白神に辛い思いをさせてきてしまったのだろうか、俺は。


 成田だってそうだ。白神も成田も何も言わなかったけど、普通好きな男から他の女の相談をされるのなんて嫌に決まってる。少なくとも俺なら、美優が俺に別の男の話をしてきたらすごい嫌な気持ちになるし。


 美優が真剣な顔で俺を呼びだして、俺以外の男の……例えば一緒にドラマに出ていた俳優の話とかをしてくるとする。どうやって接していいのかわからないとか、どうやったらお話しできるようになるのだとか、もっといいところを見せたいだとか……。


 ――あ、ダメ。想像するだけで泣けてくる。美優に笑顔で他の男の話されたら心折れちゃうよ、俺。


 美優は今まで俺に他の男の話を一切したことがない。一緒に仕事をしたことのある芸能人どころか、小中高のクラスメイトの話題すら一度も出したことがなかった。


 だから俺も美優が他の男の話をするところなんて想像したことなかったし、ていうかそんな話をするなんて今でも全く思わないんだけど、ともかく白神や成田の立場になって考えてみて、初めて俺が二人に対してとても酷いことをしていたんだなと気付かされて……。


 二人のことは人として好きだし、女の子としても魅力的だと思うけど……やっぱり俺が生まれてからこれまで培ってきた価値観っていうのはそう簡単に覆らないわけで。


 いやでも、ここで二人のことを拒絶するのは簡単だけど……いうほど簡単じゃないか。いやまあそれは置いといて……拒絶して、二人に悲しい顔させて、また辛い思いをさせて……本当にそれでいいのだろうか。


 二人の気持ちを一番拒絶したかったのは美優のはずだ。普通に考えて、自分の彼氏に他の女の子が言い寄ってくるなんて嫌だろう。俺だって美優に他の男が言い寄ってるなんて絶対に嫌だ。とはいえ人気アイドルという関係上、俺の見えないところで言い寄られまくってるんだろうけど……。


 その美優が、二人のことを拒絶せずに話を聞いて、それで俺に一任したのだ。言ってしまえば「俺の意見に従う」って言ってここに送り出してきたのだ。


 ことここに至っても俺は……何が正しい答えかがわからない。二人を拒絶するのが正解なのか。二人を受け入れてしまうのが正解なのか。


 美優のことだけを考えるなら拒絶してしまった方が正解なのだろうか。でも今まで俺が散々頼ってきた二人を拒絶するなんて、人としてどうなんだろうか。けれどもそれを言うなら、すでに恋人がいるのに他の女の子のことで悩んでる現状も人としてどうなんだという話になるけど……。


 だぁー! わっかんねぇー! なんでこんなことになってんの!? 俺が悪いのか!? いやでも俺別にそんなに変なことしてないよな!?


 好きな男に別の女の話され続けて、それでもずっと好きでいられるってメンタル強すぎだろ! 俺だったら無理だよ! 美優から別の男の話されたら脳が破壊されちゃうよ!


 白神と成田のことが嫌いか? そんなわけない。

 白神と成田と男女の交際としての付き合いができるか? 美優と付き合ってなければこんなに悩まなかったはずだ。


 こんなことで悩む日が来るなんて全然想像してなかった。そもそも誰かと付き合う、なんてこともそんなに考えてこなかったのに……。


 思い返せば、物心ついたときから俺の生活の中には常に美優の存在があって、それは今も変わっていない。そりゃあもちろん昔よりも美優と一緒にいる時間は減ってしまったし、俺だってもう高校三年生なんだから自分の将来のこととかも考えたりする。


 その将来のことを考えた時に、美優が俺の傍にいないなんてことを想像したことがない。どんな形であれ俺の人生の傍には美優がいるんだろうなってなんとなく思ってて。


 それは美優の気持ちを聞いたことでほとんど確信に変わったのだ。


 ……お前何様だって感じかもしれないけど、俺が赤の他人だったら絶対そう思うんだけど……たぶん美優は俺の言うことならほとんどなんでも聞いてくれると思うんだ。


 美優自身も言ってたけど、俺がアイドルを辞めて欲しいって言えばアイドルを辞めるだろうし、それ以外のことだって何でも聞いてくれる……と思う。俺が美優のためにいろいろしてあげたいって思う以上に、美優は俺にいろいろしたいって思ってくれてるんだ。


 それは嬉しいって素直に思うと同時に、美優は俺がいなくなったらどうなってしまうんだろうって心配に思う気持ちもあって……。


 それで……話を聞く限り、白神と成田の二人も俺に対してそういう思いを抱えていて。


 俺は二人の気持ちに真剣に向き合わなきゃいけないんだと思う。しっかり答えを出してあげなきゃいけないんだと思う。


 だから、俺は今俺が考えていることを、二人に伝えられる俺の思いを、口に出して二人に伝えようと思う。


 それで二人がどう思うかなんてわからないけど、少なくとも、誤魔化してはぐらかして逃げ出してしまうよりは俺の気持ちが伝わるはずだから。


 そう決意して、真剣な瞳で俺を見つめてくる二人に対して、俺は重くなる気持ちを奮い立たせながら口を開いた。


「二人とも、俺は――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る