六章 生徒会長とシュウ

君は生徒会長で、俺の理解者

 どうしたらいいのだろうか。


 いや、悩むまでもなく断るべきだろう。


 俺には美優っていう彼女がいるのだから、白神に告白されたとしても断るべきだ。それが常識的な対応で、最善手のはずだ。疑いようもなく、確実に。


 じゃあ俺は一体何に悩んでるのか? 悩む余地なんてないはずなのに。


 ……いや、悩む余地なんていくらでもある。悩まない方がおかしい。


 白神は俺の小学校からの友人で、もう親友とも呼べる存在だ。何でも気軽に話せるし、美優以外なら間違いなく一番近い位置にいた異性だった。


 でも親友だって思ってたのは俺だけで、白神はずっと俺のことを異性として好きだったらしい。


 全然気づいていなかった。美優の時もそうだけど、白神の好意にも気づいていなかったのはもどうしようもない。俺は馬鹿だ。


「はぁ……マジでどうしよう……」


 断るのが正解だ。美優を悲しませるわけにはいかない。


 でも、俺が断ることで今までの関係が崩れて、白神との仲が拗れてしまったら? 俺だけじゃなくて美優との関係も拗れてしまうかもしれない。親友だと思っていた白神と疎遠になるかもしれない。


 白神の告白は断るけど、友人としては今まで通り仲良くしていきたい。なんていうのは虫のいい話だと思う。告白をされた人間と告白をした人間だ。断ったからそれが無かったことになって、今まで通りに仲良くしましょう! なんて通用しないだろ。


 だからと言って、美優がいるのに白神の告白を受け入れるわけにもいかない。それじゃ二股だし、そんなことしたら美優に申し訳が立たない。


 白神のことは好きだ。女の子として、とかそういうことを今まで考えてなかったから、そこに関しては何とも言えないけど。友人としても人としても好感が持てて、いつだって助けになってやりたい。


 いや、でも、こんなところで悩んだって道は一つしかない。断るしかないのだから、俺が考えるべきなのは断った後の話だろう。


 白神がなるべく傷つかないように。美優との関係が拗れないように。それで、できれば俺と今後も仲良くしてもらえるように。……これは無理か。告白を断ってきた男の傍にいるとかどんな罰ゲームだよって話だし……。


「あー……明日になるのこえーなぁ……」


 寝るために電気を消した部屋で、俺は一人呟いた。











 結局白神のことが悶々と頭の中で回ってしまい、あんまり寝れなかった。起こしに来た美優にも心配されてしまってけど、白神に告白されて悩んでたなんて美優には言えないから適当に夜更かししてしまったとかなんとか言ってごまかした。


 美優に嘘を吐くのは心苦しいけど、こればっかりは仕方ない。俺と白神の問題で、美優は知らなくていいことだ。下手に美優に白神が俺に告白してきたとかいうのが知られたら、美優と白神の仲が拗れてしまうかもしれないし。


「シュウ君。体調悪いなら無理しちゃダメだよ? 何かあったらすぐに連絡してね? いつでも駆けつけるから」

「いや、仕事ほっぽり出して来たら駄目だろ。心配しなくても体調悪いわけじゃないから大丈夫だよ。ありがとな」


 美優は俺のことを心配しながらもアイドルの仕事に出かけていった。


 俺は俺で一人で学校に向かう。


 白神のことがあったから学校に行くのは正直気が進まない。でも白神に会うのが気まずいから、なんて理由で学校を休むわけにもいかない。そんな理由で休んでたらいつまでたっても学校にいけないし白神に向き合うこともできない。


「学校に着いたら、白神に話をして、昼休みくらいに時間とってもらって、それで断りの話をして……」


 口の中で小さく呟きながら学校までの道のりを歩く。こうやって小さくても声に出して整理して気持ちを奮い立たせないと、白神の顔を見ても何も言い出せなくなりそうだったから。


「はぁー……」


 そんなこんなで教室について自分の席に座りながら、大きなため息をついてしまう。教室にはまだ白神がいなかったから俺は何もできてないんだけど、ここに来るだけでもう疲れてしまった。


「どうしたシュウ、朝からそんなデカいため息ついて。悩み事か?」

「賢二……」


 俺のため息に気付いた賢二が声をかけてきてくれた。


 賢二も白神と同じ、小学校からの友達で、親友だ。流石に美優のこととかを相談したりはしてこなかったけど、それ以外のところで何度も助けてもらったし、助けたしで、気の置けない間柄。


「めっちゃ悩んでる。めっちゃ悩んでるんだけど、答えはもう出てるんだよなぁ……。でもその答えがめちゃくちゃ気が重いというか……」

「なんだなんだ。とうとう高島からコクられたか?」


 賢二のからかうような声に、胸がどきりと跳ね上がる。


 今悩んでることとは違うけど、美優から告白されたのも確かだ。俺と美優が付き合い始めたのは周囲の誰にも伝えていない。知ってるのはたぶん俺と美優の両親くらいだと思うんだけど、なんだろう。周りから見て俺と美優の関係が変わったように見えるのか?


「いや、そういうことじゃないんだけど……まあ、とりあえず大丈夫と言えば大丈夫だから。心配してくれてありがとな」


 具体的なことは何も言わずに話を濁す。賢二は悪いけど、美優と白神のことをおいそれと人に話すのはなんか違うというか。秘密にしたいってわけじゃないんだけど、こう、なんというか……うまく言葉にできないな。


「なんだ違うのか……。ま、大丈夫ならいいんだけどな。あんまり暗い顔するなよ、うるさいやつがいるんだからさ」


 そう言って賢二は俺の近くの席に座ると「そういえば昨日推しの配信でさー」なんて雑談を振ってきた。


 俺も賢二の雑談に乗っかる。白神が来るまでに気持ちを落ち着けようと殊更に雑談に意識を割いた。


「お、もう朝のホームルームの時間じゃん。席戻るわ」

「おう」


 なんて言って賢二が自分の席に戻っていく。それから少しして担任の先生が教室にやってきてチャイムが鳴った。


 結局、白神が朝の時間に学校に来ることはなかった。











「白神、結局最後まで学校に来なかったな」


 朝の時間に担任から「白神は体調不良で欠席だ」ということは知らされていたが、昨日は全然そんな風に見えなかったし、告白してきたし、何かの拍子にひょっこりと学校に来るかと思ったけど、そんなこともなく。


 今日一日白神に会ったら絶対に話しかけて昨日の話をしようと気張っていた俺は、盛大に肩透かしを食らった気分だった。


 うーん……マジで体調不良なんだろうか? それだったらそれはそれで普通に心配なんだけどな……。メッセージ、送るか? 体調大丈夫か? って。


 ……でも、告白の返事もしてないのに体調確認のメッセージ送るのって気まずくないか? 告白の返事なんて言う大事なことをメッセージで済ませたくないし……。


 ちょっと後で考えよう。とりあえず今は生徒会の仕事だ。


 俺は頭の中の考え事を半ば無理やり切り替えると、生徒会室に向かって移動した。今日は生徒会の活動日だ。


 夏に向けて郊外のボランティア活動の内容を決めなければいけない。今俺の気分はそれどころじゃないけど、それとこれとは別だ。仕事はちゃんとやらないといけない。


 そんなことを考えながら生徒会室の扉を開く。挽きたてのコーヒーの香りが俺の鼻腔をくすぐった。


「お疲れ様、シュウ」

「お疲れ、成田」


 生徒会室には、俺の中学からの友人であり、俺を生徒会に推薦した人間であり、なんだかんだと俺のことに理解を示してくれている女子生徒。


 切れ長の瞳に、大人びた風貌。クールで完璧な生徒会長の成田玲がすでに座っていた。

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