生徒会長成田玲の主張(玲視点)

 美優から見たら私たちは後から湧いて出てきて、横からシュウを搔っ攫おうとしている泥棒猫に見えていることだろう。


 美優が築いてきたシュウとの時間は本物で、かけがえのない時間だということは理解している。幼少期の思い出というものは私たち人間にとって、成長しても、大人になっても色濃く残り、私たちという人間を形作っていくものだろう。


 その点で言えば、私は美優や有紗のように本当の幼少期にシュウと出会ってはいない。そのことは本当に悔やまれることではあるが、過去を変えることはできない以上歯を食いしばってでも受け入れるしかない。


 私とシュウは中学生からの付き合いだ。美優を通じて知り合って、そこから仲良くなった。


 私は自分で言うのもなんだが、基本的に男の人に興味がない。別に同性愛者という訳ではない。ただ単に、幼少期に見ていた兄の背中が大きすぎて、同年代の男子に全く持って興味が湧かなかっただけだ。


 そんな私の心に踏み込んできて、溶かしてきたのがシュウという男の子だ。


 有紗もさっき言っていたが、シュウという人間は恋愛事においてとかく無頓着な傾向にある。


 シュウ以外の男子と話さない私が、手を握られながら「成田はここにいるのにな」なんて私を慮るようなことを言われて、どう想うかなんて微塵も考えていないのだ。


 だが、私はそれでいいと思っている。


 シュウのそういう、損得考えずに相手のためを思って言葉を発するところが、最高に格好いいと思っている。


 美優だってそう思うだろう? なに、そのおかげでこうやって私や有紗のような人間を生み出してしまっている部分はあるが、そもそもそういうシュウでなければ美優だって好きにならなかっただろう。


 美優がシュウを盗られないために私に牽制したり、有紗に牽制したり、周囲に睨みを効かせたり、そういった行動をとるのはよくわかる。私でも美優と同じ立場に立っていたならそういう行動を起こさなかったとは口が裂けても言えないからな。


 だが、美優。


 美優は本当に、シュウのことを自分一人のものにしたいと、独占したいと思っているのか?


 いや、そういった気持ちがあるということは別に疑っていないよ。そう思う気持ちは本当のことだろう。だが、


 幼少期からずっと好意を持っている少年を、自分一人で独占したい。本当にそう思っているなら、美優ははずだ。


 だってそうだろう? 小学一年生の時はそこまで頭は回らなかったかもしれないが、私と美優が友人になったのは中学生の時で、私はそこで美優からシュウのことを紹介されたんだ。


 本当にシュウのことを独り占めしたいと思っているなら、わざわざ私にシュウのことを紹介する必要性はないだろう。


 私のシュウ君は、こんなにすごい人なんだ。だからみんなに見て欲しい!


 本当に、そういった思いが無かったとでも?


 テレビでシュウとの仲を話すのもそうだ。


 別にシュウと恋人同士になるだけなら、シュウの部屋で二人きりになって美優から迫るだけでいい。それだけでシュウは首を縦に振ったことだろう。実際にそうしたんじゃないか?


 でも美優は、その前もその後もシュウとの仲をアピールし続けた。


 そんなことをすればシュウは目立つし、シュウのことを狙う女子だって増えて当然だ。対外的には美優とシュウは交際していないし、そうでなくても「有名アイドルの大切な人を奪ってやった」なんて邪な考えを持つ輩が現れてもおかしくはない。


 それなのにアピールを続けたのは、美優がシュウを自慢したかったからだろう? シュウのことを共有したかったからだろう?


 ――なあ、美優。


 そのシュウを共有したいという想いを、美優と、有紗と、私の中で収めないか?


 さっき有紗も言っていたが、シュウの一番は美優でいい。それは今までもこれからも変わらないだろうし、わざわざ私はそれを盗ろうだなんて思ってはいない。


 ただ、シュウと一緒にいて、シュウに尽くさせてくれればそれでいい。


 美優。シュウと私たちにとって何が最善かということを、よく考えておいてくれ。

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