君はあたしの親友で、好きな人3(有紗視点)
あたしがよく撮影でお邪魔しているスタジオに、今日はあたしにとって特別な男の子がいる。
シュウ。あたしの親友で、好きな人だ。
シュウにあたしの撮影のモデルの代役を頼んで、ここまで着いてきてもらった。
シュウは女の子の容姿とかもそうだけど、自分の容姿にもあんまり関心がない。まあでも関心がないから不潔にしたり髪を整えてないだとか髭をそってないだとかってことはまったくなくて、きちんと身なりは整えているし清潔にしている。
自分の顔が他人に比べてカッコいいとか不細工だとかって話をしないって話で。男の子ってあんまりそういう話しないのかな? あたしが本当に仲のいい男の子ってシュウしかいないから、他の男の子がどうとかっていうのは知らないんだけど。
そんなシュウだけど、あたしの好きな人補正とでもいうべき色眼鏡を外したとしても、読者モデルとして雑誌に載ってても全く見劣りしないレベルの容姿をしている。
優しげな目元にスッと通った鼻筋。細身だけどしなやかな筋肉のある体は、タイトな服装をさせると引き締まったからだが引き立って美しい。背もそれなりにあってあたしよりも目線が高い。
男の子でもあたしより背が低い人なんていくらでもいるから、あたしより目線が高いのはあたしの中でめちゃくちゃ好きポイントが高い。あ、やっぱり色眼鏡外せてないかも……。
まあでも、雑誌に載っても大丈夫だったから加賀美さんも即オッケー出したんだろうし、やっぱり客観的に見てもシュウってかっこいいんだよね!? 少なくともあたしの中では声をかけてくる他の読者モデルやってる男の子より一万倍くらいカッコいいんだけど!
なんて思いながらシュウと一緒に加賀美さんと今日の予定を聞く。
「今日はカップル特集なんだけど……シュウ君は有紗ちゃんから聞いてる?」
「あ、はい。一応そういう特集ってことだけは」
「そう、なら大丈夫ね。それじゃあ今日の予定なんだけど――」
カップルコーデの写真を撮ったり、デートコーデの写真を撮ったり。恋人と一緒に過ごすおうちコーデ! みたいな写真とかも撮ったりするらしい。
あたしは加賀美さんが話すそういった今日の予定を聞きながら、この間の玲との会話を思い出していた。
「美優がシュウに告白するって、マジ? マジ情報?」
「情報というよりは、私の推測といった方が正しいな」
お茶を一口飲みながら玲が落ち着いた声音で告げる。
「今週辺りに美優から話があるんじゃないかとシュウに聞いたら、その通りだと言っていた。美優は思い立ったら行動が早い。アイドルになるのも、今回週刊誌からテレビでの行動も、美優が思い立ってすぐに行動に移した結果だろう」
玲の言葉にあたしは「それで?」と返す。確かに美優は思い立ったらすぐ行動する節はあると思う。
「だから、今週話をするつもりだがまだ話をしていない、ということは近いうちに話をするということだ。そしてそれは明日なのでは、と私は見ている。実際には美優もアイドルの仕事との兼ね合いがあるだろうからズレるかもしれないが、まあそう間違ってはいないだろう」
まあ、玲の言っていることも納得できる。週刊誌のもテレビのも、結局は美優がシュウを手に入れるための行動だろうし。シュウのあの発言があったから、美優は今までののんびりじっくり作戦から急接近作戦に切り替えたのだ。たぶんだけど。
「美優がシュウに告白をすれば、シュウは美優と付き合うだろう」
「ま、そだね」
シュウが美優のことを女の子として好きかどうかは置いておいて、シュウは向けられた好意を無下にはしないはずだ。それが幼馴染の女の子で、小さい頃からずっと一緒にいた美優なら猶更だろう。
そしてそうなった場合、美優がシュウ君の気持ちを『恋愛感情かどうかわからない』ままにしておくはずがない。どうにかしてその幼馴染に向ける愛情を恋人に向ける愛情に変化させようとするはずだ。
「私たちは後手に回る。美優とシュウが付き合い始めてからが本番だ。美優より先んじて動くこともできたが、それでは美優が敵になってしまう」
「まあ美優なら自分より先にシュウと付き合った女とか許しそうにないよね。それで?」
「だから美優がシュウと付き合い始めてから動く。それもなるべく早く、シュウの心が美優だけで固まりきる前に」
テーブルの端に置いていたお皿やプレートを店員さんが回収していく。
私は玲の言っていることを一度自分の中に落とし込んでから、玲の目を見て思ったことを口にした。
「えーとさ、玲」
「なんだ?」
「玲ってそれでいいの? シュウに自分以外の恋人がいるだとか、そういうの。あたしにこんな話してるけどさ、普通だったらありえないわけじゃん? 恋人は一人に付き一人。一対多数なんて日本じゃ許されてないわけで。あたしはもう自分の恋心を捨てるのを諦めたからいいけど、玲はどうなのかなって」
あたしの問いかけに玲は「そんなことか」と一言呟いた。
「もちろん構わないとも。私だって現代日本でこういったことはおかしいという常識は持ち合わせている。だが、私も諦められない。どうしたって手放したくないものがある。だったらそれをどうにかして手の中に納まるようにしたいと思うだろう? 違うか?」
そう言って玲は薄く微笑んだ。
「じゃあシュウ君は男子用のメイク室に移動してメイクと衣装の着付けしてもらってね。有紗ちゃんはいつも使ってるメイクルーム入ってちょうだい」
「わかりました」
「はーい! 了解です!」
美優が告白してシュウと恋人になったらなるべく早く動く。玲と話し合って数日、明らかにシュウと美優の様子が変わった。
二人の距離感が前よりも断然近いし、シュウは美優にお弁当を作ってもらっている。これは絶対二人は付き合っている。そう確信が持てる変化だった。
だから今日、あたしはシュウの心を揺さぶる。そのためにシュウをここへ連れてきた。
今はあたしのことを友達だと思っているシュウに、あたしを一人の女の子だとはっきりと意識させる。そのために一番手っ取り早く効果的なのはやっぱりシュウに告白することだろう。
最初は学校で呼びだして告白しようと思ったけど、それだとちょっとインパクトが足りない。玲とも相談して、まずは自分のテリトリーにシュウを連れてきて、そこでアクションを起こしたほうがいいんじゃないかって。それで今日ここに連れてきたのだ。
まあ一緒にモデルができるなんて最初は思ってなかったから、今日体調不良で休んでいる相手のモデルには悪いけど感謝している。そのおかげであたしは今日こうやってシュウとモデルができるわけで。
メイクと着替えを済ませたあたしは、意気揚々と撮影場所に向かったのだった。
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