君はあたしの親友で、好きな人2(有紗視点)
いつものファミレスで玲と落ち合う。親には素直に「友達に呼ばれたから」って言って家を出てきた。
昔はそれなりに口うるさく言ってきた親だけど、もう高校三年生にもなって読者モデルの仕事もしてることもあって、最近はそんなに何も言われなくなった。せいぜい帰ってくる時間とかを聞かれて、それより遅くなるようなら連絡しなさいって言われるくらいだ。
だからあたしは財布とスマホを持って、ラフな格好で外に出た。
シュウと遊びに行くならもっと気合を入れてオシャレして出かけるけど、相手は玲だし。ファミレスで話すだけだから気合入れる必要がない。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「えっと、二人なんですけど、あと一人は後から来ます」
「かしこまりましたー。それでは空いてるテーブル席へどうぞー」
ちょっと間延びした声が特徴的だった店員さんに案内されてテーブル席へ着く。どうせ玲も飲むだろうしと思ってとりあえず二人分のドリンクバーを注文した。
適当にドリンクバーでオレンジジュースを注いで席に戻る。時刻は六時過ぎで、ちょうど夕飯時だった。そのせいで平日だけどどんどんお客さんが入ってきて、あっという間に席が埋まってしまう。
あたしは自分の席でオレンジジュースを飲みながら、その光景をぼーっと眺めていた。
玲からあたしに連絡があることは特段珍しいことじゃない。あたしと玲は時間が合えばよく遊んでるし、その遊びの連絡はあたしからも玲からもする。それに加えて普段の雑談なんかもしたりするから、他の友達に比べてもメッセージのやり取りなんかは格段に多い方だと思う。
それでも、生徒会が終わった頃にいきなり電話してくることはなかったから、今日の呼び出しはちょっとびっくりした。
まあでも、何の話だろう――なんてことは思わない。ていうかあたし電話口で聞いたし。
シュウと美優の話。あたしが部屋で一人で考えていたところに玲から電話があった。玲もシュウと美優の話がしたいみたいだし、ある意味であたしと玲は二人で通じ合ってるのかもしれない。
まあ、美優とかシュウほどの付き合いの長さじゃないとはいえ、玲とも知り合ってもう六年くらいになる。中学に上がってから今までずっと友達だから、友達歴はあたしの友達の中でもめちゃくちゃ長い部類だ。
小学校の頃から高校まで一緒の友達なんてそれこそ美優とシュウくらいしかいないし、中一の頃仲良かった子とかは皆違う高校行ったりしちゃったからね。
なんて益体も無いことを考えていると、あたしの前の席にスッと誰かが座る。
あたしとは真逆できっちり着こなした高校の制服に、センターパートの前髪と、片側だけ耳にかけたサイドの髪。切れ長の瞳にそこらの芸能人なんて霞むような綺麗な顔立ち。女の子、というよりは女性、と表現した方がいいような雰囲気の女子生徒。
「お疲れー玲」
「お疲れ様、有紗」
凛とした雰囲気を身に纏い、綺麗な姿勢で座るあたしの友達――成田玲がそこに座っていた。
「こんな時間に呼びだしてすまなかったな、有紗」
「別にいいよー。あたしも暇だったし」
ドリンクバーからお茶を持ってきて改めて席に座りなおした玲が、あたしに対して頭を下げてくる。
それに対してあたしは口にも出したように謝罪を受け流す。今日暇だったのは確かだし。この時間に外にいること自体は別に珍しいことじゃないから、そこんところも気にしたりはしない。
「夕飯は食べてきたのか?」
「ううん、まだ。玲が来てから一緒に注文しようと思ってた。ってか、玲はここで食べて帰るの? それとも家で食べる感じ?」
「私もここで食べていく。母にはもう連絡を入れた」
「おー。じゃあ注文しようぜー! 実はあたし結構腹ペコでさー」
そう言いながらテーブルに置いてあるタブレットを手に取って操作をする。このファミレスには何度も来てるからメニューは把握済みだ。
「玲は何にする? あたしはから揚げセット」
「そうだな……デミグラスソースのオムライスにしようか」
「おっけー! じゃあぽちぽちっとな!」
から揚げセットとオムライスを注文リストに入れて送信ボタンをタップする。
役目を終えたタブレットを元の位置に戻して、あたしは玲の顔を見た。
相変わらず綺麗な姿勢で座っている玲だったけど、さっきまできっちり着こなしていた制服のシャツの第一ボタンをはずして、リボンタイを少しだけ緩めていた。
「玲も制服着崩したりするんだね」
「学校の外に出たらもう生徒会長なんて関係ないからな。教師が学外では教師じゃないのと一緒だ。学内では決まりだから一番上までボタンを締めるが、はっきり言ってうちの制服は首元の余裕が無くて少々息苦しい。ボタンを締めない生徒の気持ちもよくわかる」
玲のそんな言葉に、私は笑いながら「生徒の気持ちに寄り添う生徒会長様だ」と告げる。玲が今首元を緩めているのも、今自分が言った通りの理由なのだろう。あたしが制服を着崩してる理由はまた違うけどね!
「まあ、だからと言って校内では見かけたら注意くらいはするが」
「えー? でもあたし玲に注意されたことない気がするけどなぁ」
「有紗の服装に関しては……まあ、私の視界に入っていないということだ。それに有紗の場合はある程度学校の許可も出ているからな」
「お、完璧な生徒会長様がそんなんでいいのかなぁ?」
「私も人間だからな。公序良俗に反しない限りでは友達のことを優先したり融通を利かせたりするさ。……注文した料理が来たみたいだな」
玲が言い終わると同時に店員さんがテーブルにやってきて、あたしが注文したから揚げセットと玲が注文したオムライスをそれぞれテーブルに置いていく。スプーンやフォークの入った入れ物と最後に伝票を置いて店員さんがテーブルから離れて行った。
「んー美味しそう! いっただっきまーす!」
「いただきます」
あたしはテーブルに備え付けの箸を手に、玲は今店員さんが持ってきたスプーンを手にそれぞれの料理を食べ始める。
玲は基本食事をしている時は食べ終わるまで無言だ。話しかければ答えてくれるけど、自分から話し始めることがない。だから、あたしも玲と食事をするときは玲に倣って無言で食べる。
から揚げは揚げたてで熱くてカリッとしてて美味しい。付け合わせのサラダもドレッシングがさっぱりとした風味で、から揚げの油を優しく流してくれる。白いご飯とお味噌汁の組み合わせは鉄板で、絶対に外れることがない。
男の人が食べても満足できるように、全体的なボリュームは多めのセットだ。ともすれば女の人にとっては食べきれないくらいの量かもしれないけど、あたしは普通に食べきれる。思春期男子のシュウはこのセットを食べてさらにもう一品食べたりするけど。あたしは流石にそこまで食べない。カロリーやばいし。
玲は座っている姿勢と同じくらい綺麗な所作でオムライスを食べ進めている。ぱっと見どっかのお嬢様のように見える玲だけど、別に親がどこかの会社の社長だとか、重役だとか、そういうのじゃないことは知ってる。一般家庭よりはちょっと上なのかもしれないけど、極端にお金持ちってわけでもない。
だから、この綺麗な所作は誰に強制されるでもなく、玲が自分で勉強して身に着けたものなのだ。
「ごちそうさまでした」
最後にお味噌汁を飲み込んでから揚げセットを完食する。
「ごちそうさまでした」
あたしに一息分遅れる形で玲もオムライスを完食した。
あたしたちはトレイやお皿をテーブルの端に寄せる。ドリンクバーで飲み物を注ぎなおして、もう一度席に座った。
「――さて。お腹も満たしたことだし、ようやくだが本題に入ろうか」
席に戻ってきて開口一番、玲はそう口にした。
「そうだね」
あたしと玲がこのファミレスに来たのは、そもそも美優とシュウの話をするためだ。ご飯を食べに来たわけじゃない。
静かに、いつもの様子と変わらない玲に、あたしは真剣に頷く。そんなあたしを見て玲はその言葉を口にした。
「美優は明日あたり、シュウに告白するはずだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます