君は読者モデルで、俺の親友2

 思えば白神とは長い付き合いだった。


 小学校のときに美優を通じて仲良くなって、小中高とずっと俺の友達であり続けてくれた。付き合いの長さは美優の次に長くて、男友達の賢二よりも長いくらいだ。


 長い付き合いにもなればそれこそいろんな話をした覚えがある。学校での話やお互いの家族の話。俺と美優の話とか、白神が読者モデルを始めてからはその読者モデルの話もよく話してくれた。


 でも、ふと思い返してみると俺と白神の間で誰が好きとか、誰が好みとか、そういった所謂『恋バナ』みたいな話はした覚えがなかった。


 冗談交じりの話ならしたことがある。それこそラブコメ漫画とかの話で、世間でもそれなりに人気で知名度のあったハーレムラブコメの話とかだ。


 俺は単行本を買っていたわけではないけど、その時買って読んでいた漫画雑誌にちょうど連載されていたもので、学校帰りとかに漫画雑誌を買って帰るときとかに白神と漫画の話で盛り上がったりしたものだ。


 白神はそのラブコメを好きで読んでいたらしくて、俺によくその話題を振ってきた。俺も雑誌で読むくらいはしていたから、その話に付き合って白神といろいろ話をした覚えがある。


 白神は漫画のメインヒロインよりもサブヒロインのほうが好みだったみたいで、俺と話をするときはそのサブヒロインの話題が中心だった。メインヒロインのほうが主人公に近い位置にいることを認めつつ健気に頑張る姿が、白神の心にジーンとしたものを与えてくれるとかなんとか。


 そのラブコメ漫画の延長で「現実でハーレムってありなの?」みたいな変な話もした。俺としては現代日本の常識としてハーレムとか現実的じゃなくね? て意見だったんだけど、どうやら白神は違ったらしく。


 白神曰く「当人たちがみんな納得してるならOKなんじゃないかな。好きな人に恋人がいたって絶対にあきらめられない気持ちだってあるわけで。もうそうなったら好きな人にもその恋人にも受け入れてもらう努力をしてさ、そんでそこに加えてもらうしかないじゃん? だって絶対に諦めきれないんだもん」ということらしい。


 なんだかその時の話はやたらと熱く語られて、俺も思わず「まあ、白神の言うことも一理あるよな」なんて返事をしていたっけ。


「だからシュウも、もしそういう場面があったら覚悟決めてみんな受け入れてよね!」


 って白神が言って、俺が思わず「いやなんで俺がそうなる前提なんだよ!?」ってツッコミを入れて。


 俺と白神が話したことのある恋バナなんて、この程度のものだった。少なくとも俺の中ではそうだった。






 放課後、俺は白神に連れられるまま電車に乗って隣町まで移動した後、とあるビルの一室に入っていった。


「おはよーございまーす!」


 もう夕方なのに朝の挨拶を大声でしながら部屋の中に入っていった白神に続いて、俺も小声で挨拶をしながら部屋に入る。


 部屋の中はいかにも撮影スタジオ! って感じの内装になっていて、部屋の中央に白い背景と大きなライトが数台設置されていた。床にはライトやカメラ、その他諸々の機材やそのケーブルが散らばっている。部屋の隅にはテーブルと椅子が置いてあってちょっとした休憩スペースみたいになっていた。


「有紗ちゃんおはよー! 今日はごめんねぇ」


 撮影の準備で数人のスタッフみたいな人が忙しなく準備をしている最中、挨拶をした白神に一人の女性が近寄ってきた。


 ジーンズにTシャツといったラフな格好で、女子の中では背の高い白神と同じくらいの身長があるショートカットの女性。


「全然大丈夫ですよ加賀美さん! この通り代役捕まえてきたんで!」

「君が有紗ちゃんが言ってた『彼』ね。初めまして! 私は加賀美京香かがみきょうか。今日撮影する雑誌の編集をやってるの。君のことは有紗ちゃんから聞いてるから自己紹介は大丈夫よ。今日はよろしくお願いするわね!」

「あ、はい、よろしくお願いします……よく聞いてる?」

「か、加賀美さん! その話はしないでください! ね!?」


 俺のことよく聞いてるって何? え、なんかそんな事言われると気になるんですけど。


 白神って読者モデルの仕事してるとき俺の話してんの? 加賀美さんのあの口ぶり、さっき始めて俺のこと聞いたって感じじゃないよな?


「加賀美さん、それってどういう――」

「シュウもわざわざ聞かなくていいの! もう……今日の撮影内容教えてください! ……それと一応確認なんですけど、今日の撮影はあたしの相手はシュウってことでいいんですよね?」


 俺が加賀美さんに尋ねようとしたところに白神が声を被せてきた。


 白神が普段どんな話をしてるのか気になるんだけどなーと残念に思いつつ、確かに白神の尋ねた内容も重要だった。


 学校での白神の口ぶりだと俺はあくまで保険って感じで、向こう側が代役探してるって感じだったけど、この部屋に入ってから俺以外に白神と同年代の男子が見当たらない。カップル特集って話だったし、流石に相手も白神と同年代くらいのモデルを見繕ってたはずだ。だから、単純に考えるならこの部屋に俺以外のモデル候補がいない。


 確かに代役探しが難航してるとは聞いてたけど、そうは言っても相手も仕事だしなんだかんだ言って代役を見繕って用意してると思っていた。だから俺の心情としては半ば以上に見学だけするつもりくらいの心持ちだったんだけど。


「身長も、見た目も、姿勢も……うん、オッケーよ。撮影用にメイクだけちょっとしてもらえれば十分カメラ映えするわ」

「やった! さっすがシュウ、やるじゃん!」

「いや、俺なんもしてないけど……」


 どうやらそういうことらしい。


「代役、見つかんなかったのか?」


 隣りにいる白神にこそっと小声で尋ねる。ほとんど見学するつもりだったとはいえ、元々モデルをやるために着いてきてほしいってことでここまで来たのだ。今更モデルをやりたくないなんてことは言わないけど、一応確認はしておきたかった。


「代役? ――あ、うん。そうみたい」

「……? そうか」


 返答になんか変な間があったものの、どうやらそういうことらしい。


「じゃあ、二人とも、今日の予定の説明するからちょっとこっち来てね」

「はーい。行こ、シュウ」

「うい」

「もーなにその返事!」


 そんなこんなで俺は白神に引っ張られるまま、部屋の隅の休憩スペースまで歩いて行ったのだった。

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