五章 読者モデルとシュウ
君は読者モデルで、俺の親友
「私がテレビでシュウ君のことを話すのは、シュウ君のことが好きだからだよ? 周りのことなんて関係ないの。シュウ君は心配しなくても大丈夫。だってほら、私のファンって今の私も応援してくれてるから問題ないよ。ね?」
美優にメッセージを送った日の夜。
美優が家に帰ってから『ビデオ通話』で美優に言われたのがこの言葉。
俺としては美優が俺のことを喋ってくれるのは嬉しい反面、厄介なファンがストーカーみたいになったりしないかとかが心配なんだけど。
「シュウ君私の後輩と同じようなこと言うんだね」
なんて笑って「もう事務所と相談してるから大丈夫だよー」と軽く言う美優。
俺はその笑顔に癒されながら、ぬぐい切れない不安感を胸に抱えるのだった。
美優がテレビでオープンに俺のことを話すようになってから、俺の生活は一変した――わけではない。確かに今まで美優はテレビとかで私生活のことについてはまったく喋ってこなかったわけだが、そもそも俺の周りの人間は俺と美優が幼馴染として仲良くしているということを知っている。
その『幼馴染として仲の良さをアピールする』程度の話を今更聞いたところで、クラスメイトや同学年の人間からすれば『ああ、うんそうだったね。そんな感じだったねあの二人』みたいな反応だったりする。
でももちろん他学年とかの人たちみんなが俺と美優の関係を知っているわけではないから、俺のところに話を聞きに来たり『美優過激派』みたいなやつが乗り込んでこようとしたりみたいなこともあった。
が、それらは事前に成田及び生徒会役員と教師陣の会議(俺も参加はしたが当事者なので基本的には希望を述べるだけに留めた)で『校内外で問題行動を起こした場合は厳しく処分する』という通知を全校生徒に向けて行っていたおかげで、そこまで激しいことは起こらなかった。
せいぜい休み時間にちらちらうちのクラスを見に来るくらいだ。それくらいなら前からいたから問題にならない。
「シュウ、まあ頑張れよ!」
賢二から何故か生暖かい笑顔を向けられながら激励を貰ったが、あいつは俺のことをなんだと思ってるんだ? いやまあ激励自体は素直に受け取っておくけど。
『幼馴染の男の子』と親しくしているということが発覚しても、美優は相変わらずアイドルとして忙しく過ごしていた。
今までも美優は他の男性芸能人との距離感がめちゃくちゃ離れていて、SNSや雑誌のインタビューとか、バラエティの仕事とかでも一切誰かと仲良くしてる描写とか情報が無かった。それが、たった一人の幼馴染の男の子だけは気を許して積極的に仲良くしているというのは、どうやら恋する女の子たちへの受けが良かったらしい。
俺のことを『彼氏』と公言しているわけではないけど、世間ではもっぱら『恋するアイドル』みたいな立ち位置として浸透してきている。
その相手が俺というのはむず痒いけど……まあ彼氏だし? これからも美優のことを応援する気持ちに変わりはないし? ていうか俺の彼女可愛すぎじゃね?
なんて脳内で反芻しながら授業を終えた俺の元に、よく見知った女子の声がかかった。
「シュウ……なんか顔キモイんだけど。学校で変な妄想してない? 大丈夫?」
「しししししてねーし!? き、急になんだよ白神!?」
「ビビりすぎて草。絶対してたやつじゃん」
今日も今日とてばっちりメイクを決めて、日の光を反射して映える明るい髪をポニーテールにした白神が俺を呆れた目をしながら見てきた。
ぱっちりとした瞳に、発色のいい唇。健康的な長い脚に、すらっとした体形。
……美優と付き合い始めるまで全く意識したことなかったけど、白神もめちゃくちゃ可愛い女の子だよな。美優がアイドルとして有名になってるから目立って陰に埋もれてるけど、そうじゃなかったらもっと騒がれてたっておかしくないレベルの女の子というか。
読者モデルをやってるっていうのも普通ならもっと注目されててもいいようなもんなんだけどな。
「え、な、なに? そんなにあたしのこと見つめて……もしかしてあたしで妄想を!?」
いつの間にか白神のことをじっと見つめてしまっていたら、白神が急にそんなことを言い始めた。
「いや、そんなことないけど」
「……冷静に言われるとそれはそれで傷つくんですけどー」
唇を尖らす白神に「白神ってよく見たら可愛いよなって思っただけだよ」と考えていたことを告げる。
「かわっ!? ……って、よく見たらって何よよく見たらって! よく見なくてもあたしはかわいいっつーの! 読モ舐めんな!」
顔を真っ赤にしながら声を上げる白神に「ごめんごめん」と謝る。
「あーもう! ……シュウに話しかけた目的忘れるところだった」
「目的?」
白神と休み時間に雑談するのはよくあることだから、何か目的があって話しかけてきてるとは思わなかった。
「そ。シュウって今日の放課後暇? 生徒会の仕事はないよね?」
首を傾けながら聞いてくる白神。
今日の放課後は暇と言えば暇だ。美優は仕事で夜まで帰ってこないし、白神の言う通り生徒会の仕事もない。特に他に何か用事があるわけでもないから時間は空いている。
「暇と言えば暇だけど。何かあるのか?」
「今日あたし読モの撮影があるんだけどさ。ちょーっとシュウに着いてきて欲しいなーって。ダメ?」
パンっ! っと両手を合わせて俺にお願いしてくる白神。片目を閉じて俺を上目遣いで見上げてくるおまけつきだ。美優がやってきそうなあざといポーズだけど、白神がやっても可愛らしく見える。
読者モデルの撮影に着いて行くのかぁ。興味はあるけど、そもそもなんで着いて行かなきゃいけないのかがわかんないから気軽にうんって言えないんだよな。
「なんで俺? 着いて行ってもやることあるの?」
「それがさー。今日の撮影『カップル特集』ってやつなんだけどね?」
俺の問いかけに白神が眉尻を下げながら話し始めた。
曰く「カップル特集の撮影だったが当日になって相手方の男性モデルが体調を崩してキャンセルになった。本来ならリスケするところだが雑誌の発売日から考えるとリスケが難しいらしく、どうにかして今日撮影したい。男性モデル方の事務所も代役を探しているが、何分当日いきなりではなかなか見つからない。そこで『できればでいいから男性モデルができそうな人を連れてこれないか』とあたしに連絡があった。だからとりあえずついてきて欲しい」ということらしい。
なるほど? ……そんなことある?
いや、俺は読者モデルとかの世界のことはまったく知らないけど、それでいいのか?
「いーのいーの。モデルって言ってるけど、読モなんて事務所と契約してるわけでもない一般人なんだし。雑誌の撮影の時だけ出版社にお世話になるだけで基本素人なんだからさ。シュウって背そこそこ高いし筋肉もあるけど引き締まって細身だし、姿勢も悪くないし。今日一日の撮影くらいだったら余裕でこなせるって!」
「まぁ、白神がいいならいいけど」
「それに行ってみたら向こうが代役のモデル見つけてるかもしれないしさ。とりあえず一緒に行ってくれるだけでいいから! ね! お願い!」
本日二度目の両手を合わせてのお願いのポーズに、俺は「まあ、とりあえず着いて行くだけ着いて行くわ」と了解の返事をした。
「ありがと~! シュウ助かる! ホント神! もし撮影することになったらバイト代は出るから! そこは安心して!」
なんて喜ぶ白神。
白神と二人で出かけることなんて今までもよくあったけど、俺は今美優と付き合っている。今まで通り……っていう訳にもいかないだろうけど、急にその関係を変えることも難しい。
俺はとりあえず美優に『今日白神の読モの撮影に付き合うことになったわ』とメッセージを送って、その日の放課後まで過ごしたのだった。
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