あたしと君と二番目と(有紗視点)
中学時代、あたしは美優の様子を伺いつつあたしなりにシュウとの中を深めていった。もちろん男女関係的なあれこれじゃなくて友達として仲良くしてたんだけど。
最終的にはシュウと男女の関係になりたいと思ってるけど、焦ってことを進めようとしてもいいことにならないことはよくわかっていた。
美優が常にシュウの近くにいたっていうのもあるけど、根本的な問題としてシュウがまだ誰のことも異性として好きになったことがなかったというのが一番大きい。
中学の頃から周りより可愛かった美優がずっと近くにいて自分に懐いてくれてて、しかもそれが当たり前の環境にいたからか、たぶんシュウの中で女の子に対するハードルがめちゃくちゃ高くなってる。
シュウは意識してないし口にも出したことないし、態度にだって出したことないし、女の子の容姿についてとか性格についてとか他人にあれこれ言うことも無いけど、逆に言うとよく男子とかが話してた「アイドルの誰誰が可愛い」だとか「好みの女優は誰誰」だとか、そういった話もしたことがない。
美優っていう女子から見ても羨ましくなるような可愛さの幼馴染が近くにいて、それが当たり前だから美優以外の女の子の容姿について思うことも何もないんだろうなって感じ。
小学生とか中学生とかは見た目が可愛いから好きになるみたいな男子が多かったから、そういうことに無頓着だったシュウは異性として女の子を好きになる、みたいな感情を経験してきてないのだ。
まぁ、これはあたしの推測でしかないんだけど。たぶんそこまで間違ってないと思う。
だから、そういった感情を押し付けることになりかねない大胆な行動はシュウを引かせるだけだと思ったから、あたしはあくまで友達として仲を深めるようにしてきたのだ。
あたしの欲望に身を任せてシュウに詰め寄ることもできるけど、それでシュウに引かれたら終わりだし。そんなことになったらあたしへこみ過ぎて病む自信あるし。そうならないように友達っていう立場と距離感から、少しずつシュウににじり寄っていくのだ。
シュウ以外の男なんて欠片も興味がない、そこらに転がってる石ころと同じくらいの価値しかないと思ってそうな美優が、あれだけ近くにいながらシュウにぐいぐい迫らないのもあたしと似たような理由だと思う。しかも美優は幼馴染っていう、家族以外で言えばシュウに一番近い立場で、どっちかが実家から出ていかなければずっとそばにいれる間柄だ。美優からしたらじっくり時間をかけてもいいところを、焦る必要なんて欠片もないんだろう。
「有紗は高校どこ行くの?」
「美優と一緒のとこいこっかなーって考えてるけど。あたし高校出てからすぐ働くとか嫌だしさ。進学校行って大学行こっかなーみたいな?」
「ふぅん……気持ちはわかるなぁ」
「美優はなんでその学校志望してんの?」
「シュウ君がそこ行くって言うから。地元の高校の中じゃ大学の進学実績も悪くないしいいかなって」
「あ、ふーん……そうなんだ」
あたしには美優と違って高校、長くても大学までしか時間がない。
だから、その時間を精一杯使ってあたしはあたしなりにシュウと関係を作っていくのだ。
そんな思いで過ごしてきてるあたしだけど、正直に言ってあたしはあたしが美優に勝てるとは思ってない。
シュウと積み重ねてきた時間も密度もあたしより圧倒的に美優の方が上だ。そのうえ見た目も美優の方が可愛い。あたしは別に自分のことをブスだなんて思ったことは無いけど、それでもアイドルになるような女の子と比べて勝ってるなんて思えるほどうぬぼれてるわけでもない。
女子の中では背が高い方だし、シュウにモデルみたいって言われてから殊更スタイルには気を入れて過ごしてきたから、自分のプロポーションには結構自信があったりする。実際、若者向けのファッション雑誌の読者モデルだって何度かやったこともある。
「白神、やっぱモデルすげー似合ってるじゃん。やんないとか言ってたわりにノリノリの表情だし」
「たまたま声かけられただけだって! あたしが自分で応募したわけじゃないし!」
「えー? でもシュウ君の言う通り、有紗すっごい楽しそうに映ってるじゃん」
「もー、美優までそんなこと言って!」
なんて、高校に上がって読者モデルをしたときにそんな会話もしたっけ。
その時はまだ美優がブレイクする前で、比較的時間にも余裕があってよく三人とか四人とかで出かけたりしていた。
高校になってからも基本的にはシュウの中の一番は美優なのは変わらなくて、それが女の子として美優のことが好きだからってわけじゃないのはわかってたけど、やっぱり見てると美優には勝てないと思ってしまう。
まあそもそもシュウが美優のことを優先するのは、あたしが初めてシュウと出会った小学生の頃からそうだったから、今更そのことについてあたしが思うことは特にないんだけど。
このまま順当にいけばシュウの中の一番は美優のままで、今は幼馴染として大事に思ってるだけの気持ちも、そのうち女の子として美優が一番大事になる気持ちにシフトしていくんだと思う。そこの一番にあたしが入り込む余地は、残念だけどシュウがいきなり他人に憑依されるとか催眠にかかるとかいった意味不明なことが起きない限り、たぶんない。
だからあたしはシュウの二番を狙うことにしたのだ。
一番は美優のもので、それはもうどうしようもない。どうしようもないものは諦める。
でも、シュウの二番はまだ空きがある。それで、シュウの二番に一番近い位置にいるのはあたしだという自信がある。
もちろんシュウは現代的な価値観の持ち主で善良な個人だから、二股とか三股、ハーレムとかは受け入れがたい存在だと思う。ハーレムラブコメみたいな漫画をシュウが読んでたことあるのも知ってるけど、それはあくまで漫画の世界だし、シュウが別に現実でそんなことを望んでるなんて話をしたこともない。
それでも、あたしがシュウを諦められない以上、シュウには最終的にそういった道を受け入れてもらう他ない。もちろん無理強いするつもりはないけど、だからと言って諦めるつもりも無いし。
本音を言えばあたしだってあたしを一番に考えて欲しいし、あたし以外の女の子なんて見てほしくないけど、現実的に見て美優がいる限りそれが無理なのはわかってる。
シュウを諦めるか、他の女の子と一緒にシュウに愛してもらうか。その二択だと、あたしには後者しか選ぶものがない。
「シュウってさー、もし自分のことが好きな子が同時に複数いたらどうするー?」
「どうするって言われても……どうしようもなくね? ていうかそれどんな状況よ」
「状況? 状況かー……そうだなー……」
「自分で質問してきてなんも考えてないのか……」
「だってただの思いつきだし! 男なら甲斐性見せてみんな幸せにするくらいのこと言ってよね!」
「え、急に理不尽!」
普段の会話から、少しずつシュウに刷り込ませていくのだ。複数女の子を囲ってもいいんだぞって。
美優はたぶん自分が恋愛的な意味でシュウの一番になったら、それ以外のことはそんなに気にしないと思う。シュウの恋人が二人になっても三人になっても。もちろんそれは全て美優が把握してること前提の話だし、美優が一番に愛してもらってる状況での話だ。
美優が一番怖がってるのはシュウが自分の傍から離れていってしまうことだ。逆に言うとそれ以外のところはわりと寛容だ。あたしとシュウが二人っきりで遊んでても、事前に連絡してって言ってくるだけでそれ以上のことは何も言ってこないし。だから、シュウの二番になるって作戦は十分勝算があると思ってる。
そんな思いで、あたしは高校二年になっても、美優が有名アイドルになっても、仲のいい友達、相談相手っていう立場をキープしつつ、会話の端々にハーレムを作ってもいいんだよっていうフレーズを入れ続けた。
美優は有名になって忙しくなってもシュウに対しては依然変わりなくって感じで。
そんなあたしたちの関係が変わり始めたのは、あの朝の出来事からだった。
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