Voltage 2→裏鬼門会

16 裏鬼門会

「”裏鬼門会”……」

「改めまして。裏鬼門会、副総裁の玖珂莱です。今後とも、どうぞよろしく」

「副総裁……なるほど、上司も上司、ナンバー2じゃない」

「そんなことより、なんでそんな物騒な名前なんだ。この街の治安を守る組織だとか言っといて、まるで正反対な……」


 極道の生き様を描いた、今も大人気のゲームシリーズに出てきそうな名前だ。治安維持組織ということは、莱が言うようにいずれ表に出てくることも想定したはずなのに、どうしてそんな世間を騒がせそうな名前なのか。


「鬼門とは、鬼が現世にやってくる入口。反対に裏鬼門は、悪さを散々働いた鬼が出ていく方角。鬼はいろんなものの象徴とされているけれど、その鬼が出入りする方角は、時に生と死にもたとえられるよねぇ」

「はあ……」


 たまに人が変わったかのように、まくしたてるのはいったい何なのだろうか。何が彼女をそうさせるのだろうか。不思議に思いつつも、話の続きを聞く。


「鬼門や裏鬼門には、避けた方がいいものと、逆にあっても問題ないものがあるの。たとえば、子供部屋は裏鬼門の方角にあってもいいと言われてる」

「そうなのか」

「生死の概念と、子供。連想されるのは、前世の記憶を持った存在……つまり、転生者というわけ」

「ちょっと待ってくれ」

「論理の飛躍が過ぎるかなぁ」

「分かってるならもっと分かりやすい説明を……」

「まれに小さな子は前世の記憶を持っていることがあるの。大きくなるにつれてその記憶は薄れてゆくけれど、その子に前世があったという事実は変わらない。この世界はそういった、転生の経験がある人が流れ着きやすい環境にあるみたい」

「転生転移ものはフィクションでよく見る話だけど、それが現実に起こってるっていうのか」

「元々はこの世界も、この街も、異能力なんて概念は存在しなかった。それが転生者によって、多種多様な能力が流入してきて、今に至るの」


 つまり、何らかの理由があって俺たちの世界に流れ着いてきた転生者たちを管理し、能力を使って悪さをしないようにするのが裏鬼門会、ということなのだろう。だがそう考えている途中で、莱が「ところが」と遮ってきた。


「能力の中にもピンキリあって、この世界では全く使い物にならない能力もあった。たとえば、まな板がなくても食材を空中でスパスパ切れる能力。食糧事情や衛生事情の悪かった中世ならまだしも、私たちの世界で日の目を見ることはほとんどない。まだ能力が浸透していなかったタイミングならよかったけど、もはや今となっては、どこにも居場所がなくなってしまうの」

「……別に、能力のことを忘れて。一般人として生きればいい話じゃないかしら」

「みんな、そう思ってた。実際、今私たち――裏鬼門会のメンバーや、私たちに味方してくれる人たちは、その立場だった。でも、どうすればそれが役に立つ能力に変換できるか、その技術が確立する方が先だったの」


 不気味な予感が脳内をよぎる。今まで俺たちが見てきたもの、それらに全て意味があるのではという予感。


「……能力には所持者との相性がある。それはある人間から能力を引っこ抜き、より相性の良い別の人間に埋め込めば、より便利で強力な能力へ変化する、という意味だ」

「能力を引っこ抜く……」

「だが能力というものは、元の所持者と強い結びつきを持っている。言うなれば、臓器だ。心臓クラスのな」

「そんなものが引っこ抜かれたら、当然、無事では済まないんじゃないの?」

「そうだ。心臓を抜かれた人間が生きていられるはずはない」

「……っ!」

「時空の歪みから流れ着いた転生者を調べ、使えない能力の持ち主からは能力を回収し、より相性の良い人間に埋め込む。おひい様の電力を使って、自動的に強い能力者を生産していた……それが、『異能製造工場』の実態だ」


 俺たちが見てきた比ではない。いったいどれだけの転生者が流れ着き、そのうちのどれだけが能力を奪われ殺されたのかは、もはや分からない。山積みになったしかばねの上に、俺たちは立っているのかもしれない。


「……あなたを助けることで、転生者から能力を奪う行為は止められたけれど、転生者がやってくることそのものは止められない。そういうこと?」

「その通り。ただ、私たちの脅威になるような能力を元から持った転生者はそうそう来ないから、時々チェックするくらいで大丈夫だよ。それよりも……」

「すでに解き放たれてしまった怪物を、どうにかしないといけないってわけね? さっき見た『ミカエリス』なんかは、その一例と理解していいのかしら?」


 浩次さんからミカエリスという言葉が出た時、ちらっと莱がヤシロの方に目配せをした。ヤシロはゆっくりとうなずく。彼が言っていた通り、能力の回収はできたのかという確認だろう。能力の回収はできた一方、薫子さんの命は犠牲になった。それを思い出して、胸が痛む。


「うん。裏鬼門会は、そういう凶暴化してしまった能力を回収、管理して、この街が健全に技術発展できるように活動してるの。能力の情報はちょくちょく一般市民にも出回っちゃってるけど、たとえるならSCP財団みたいな感じかな?」

「……なるほど」


 ただ一人、三笠だけが納得した様子だった。あまりピンと来なかった俺と浩次さんは、とりあえず能力に詳しい治安維持部隊とだけ理解していればいいか、と考えた。


「私が捕まっちゃってたせいで、しばらく活動が滞ってたけど、これでようやく本格的に活動再開できるね。まずは、生き残ってて味方してくれそうな警察官を探したいんだけど。……それで、大丈夫?」

「ああ……分かった」


 もう俺たちが裏鬼門会の一員になることは確定らしかった。ひとまず不気味な工場を脱出し、もっと落ち着く場所で作戦を練ろうという話になり、裏鬼門会のアジトへ向かうことになった。

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