第3話 ニンフ達の遊興② 林真帆
一条美月、どちらかといえば地味な存在だが、清楚で可憐、真珠色の肌に緑の黒髪、大きくぱっちりとした目と赤みの強い唇でビスクドールのような美しさの少女だった。
普通に考えれば常に目を惹きそうな容姿なのだが、一人でいると他の生徒の中に埋没して存在をまるで感じさせない。
正直、大西の
それが、大西の側に居ることで、常に大勢の目を惹くようになった。
大西の明るさが、否応無く一条を照らすのだ。
また、一条の美しさが、大西の放つ明るさに華を添えた。
二人の存在感は、当然のように学内で徐々に強まった。
一年経った今、真帆たちグループは無視ができなくなっていた。
「また、周りに聞こえるような大きな声で」
「
とりまきがディスりトークを始める。
自分達だって、私をダシにしてマウント取るじゃない、自爆してるわよ、と真帆はいつものように内心で皮肉った。
「もう学内で知らない人いないんじゃない? 一条さんのお兄さんがスーパーイケメンって。くど過ぎ」
「騒いでるのは大西さんだけでしょ? どの程度のイケメンなんだか」
大西香鈴奈が広めて回っている一条美月の兄。
ここ横浜からそう遠くない有名大学の大学院生で、王子様級のスーパーイケメン。
頭脳明晰、容姿端麗、性格も人柄も良く、妹溺愛の
普通に考えれば素直に
――いつもは当然のように私をダシにして「
確かに私の周りには、そんな異性はいないけど、貴女たちに勝手に敗北決定されるのは不愉快なんですけど。
真帆はつい、無言になった。
気づかないのかとりまきは話し続ける。
「イケメンといったら、今春から来た理科の渡邉先生がダントツじゃない?」
「同感っ!! 優しそうな雰囲気と笑顔が最高!」
「大人の雰囲気がね~! あ、そう言えば、2組の川島さん、お姉さんの同級生の高校生と付き合い始めたらしいの、聞いた?」
「えーっ知らない、そうなの?」
「そう、ちょっと調子乗ってるみたいで、皆に話して回ってるみたい」
「それって、……下品ーっ川島さんらしいといえばらしいのかも、ね? 真帆」
「ほんとね。自分で広めるとかいやらしい」
川島は、一年の頃、何かと真帆に張り合ってくるような
真帆の中では相手にもならないような存在だったが、それだけに何かと噛みついてくるのを煩わしく感じていた。
真帆が同学年で相手として認めていたのは、金井栞一人だけだった。
両親の社会的地位と本人の容姿の美しさ。
2組の金井栞だったら、張り合われても気分が良かったかもしれないし、自分磨きにプラスになったかもしれない。
このニュースも金井栞の話だったら焦ったりしたのだろうか。
川島では自慢気に広めている下品さしか感じないわ、と真帆は少し
「いやらしいと言えば、ほんとにいやらしいの! 川島さん! この夏には、その彼氏とロストバージンするんだって言って回ってるらしいの!」
「「えぇーっ!!」」
「高校に上がる前には経験しておきたいとか、エッチを知らないとかダサいとか、結構凄いこと言ってるみたいよ」
「「いやらしい~っっ」」
真帆は愉しそうに笑うとりまき達に合わせて笑ったけれど、心の中が無性にチクチクし始めるのを感じていた。
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