第4話 新たな門出

「……乾杯」

 少し気恥ずかしくて、小さな声でそう言うと、青年の忠告に従って、少しだけ、口に含む。


 甘みを含んだお酒をゆっくりと飲み込んだ。

「!」

このお酒、お酒ははじめてでも、すごく飲みやすいのがわかる。


 感動して思わず、青年の方を見る。

「……気に入ったか?」

「はい!」


 私が大きく頷くと、青年はそれなら良かった、と微笑んだ。

「あなたは——……俺はガロン。あなたは?」

 そういえば、まだ名乗っていなかったわ。

「ガロンさん、初めまして。私は、ラファリアと申します」

「ラファリア……」

 ガロンさんは、私の名前を舌で転がすように、小さく呼んだ。

「はい、ラファリアです」

「ラファリア、あなたは、花奏師を辞めたんだったな?」

「えぇ、はい」


 だから、今こうしてお酒を飲むことができるものね。


 少しずつ、お酒を飲みながら、ガロンさんの言葉に頷く。


「答えたくないなら、答えなくてもいいが。あなたは、素晴らしい花奏師だったんだろう。何か、あったのか?」

「腕のいい花奏師だったかは、わかりませんが。何か……というか、失恋したんです」

「……失恋」


 私の言葉にガロンさんは目を瞬かせた。

 よほど、予想外だったらしい。

 初対面の、素性も知らない人に話すのもどうかと思ったけれど。

 せっかくなら、誰かに聞いてもらいたくて、話を続ける。

「はい。初恋でした。六年前からずっと好きだった。でも、私は選ばれなかった。選ばれたのは、友人でした。……だから、二人の姿を見ていたくなくて、花奏師もやめちゃったんです」 


 そこまで話し終えると、グラスをテーブルに置いた。

 少し、頭がふわふわしてきた。

 これが……酔うってことかしら。


「……そうか」


 ガロンさんは頷くと私を見つめた。

「では、今日はめでたい日だな」

「……めでたい?」

「あぁ。新たなあなたに生まれ変わる日だ。恋をすると、人は変わるという。だったら、恋を無くしたときも人は変わるんじゃないか?」


 ……なるほど。


「そうですね」

 恋を無くした時も、人が変われるのなら。

 私は、変わりたい。


 そう強く願いながら、頷く。


 ガロンさんは、優しく微笑むと、もう一度グラスを合わせた。

「では、あなたの新たな門出にも。……乾杯」

「乾杯」


まだ残っているお酒を口にしながら、そういえば、とガロンさんに話しかける。

「ガロンさんは、どんなお仕事をされているのですか?」

「俺は……、管理職みたいなものをしている」

「管理職ですか、すごいですね」


 ガロンさんは、二十代前半ほどに見える。

その年齢で管理職を任されるなんて、よほど優秀なのだろう。

「別に、すごくない。聖花たちに好かれるあなたのほうが……」


 ガロンさんはそこで言葉を止め、私を見た。

 まるで星のような金の瞳は、まっすぐに私を見つめている。


「なぁ、あなたは次の仕事は決まっているのか?」

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