第3話 酒場

 酒場は、すぐに見つかった。

 昼からも開いているところもあるのね。


 感動しつつ、未知の世界へ、足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ」


 昼間から飲んでいる人は、荒くれ者が多い、なんて聞いていたけれど。

 そんなことは全然なさそうで、みんな穏やかにお酒を飲んでいる。


 カウンター席に座ると、店員さんににこやかに話しかけられる。

「ご注文は、何になさいますか?」

「なんでもいいので、お酒を一杯お願いします」

 私の返答に店員さんは、目を瞬かせた。


「なんでも……よろしいのですか?」

「……なんでも、はやめておけ。ここの店主はがめついから、最高級のものを飲ませられるぞ」

 店員さんと私の間に割って入った声に、振り向くと一つ空いて、カウンター席の隣に座っていた、黒い髪に、金の瞳が印象的な美青年が見ていた。


 どうやら彼が、私に忠告してくれたみたいだ。


「……ご忠告ありがとうございます。ええと、じゃあ……」

 何を注文しよう。

 迷っていると、さっと、店員さんがメニューを見せてくれる。

 でも……お酒については、何が美味しいのか、飲みやすいのか、さっぱりわからない。

 うーん。何を選ぶのが、正解かしら。

「これと、これと、これ……」

 迷っていると先ほどの青年が席を一つずれて、隣に座って、メニューを指さした。

「……初めてなら、このあたりがいいんじゃないか」

 それだけ言って、さっと、また元の席に戻ろうとする。

「あの、待ってください」

「なんだ?」

「あの……よかったら、一緒に飲んでくださいませんか? 私、お酒に詳しくなくて……」


 この人は、お酒に詳しそうだ。

 そう思ってのことだったけれど、青年は顔を顰めた。

「構わないが……気をつけたほうがいい。ここの酒場は気のいい奴らばかりだが、自分に気があるのだと、勘違いする男も中にはいないと限らない」

「! そうですね……すみません」

 そうだった。お酒に遠い生活をしていたから、忘れていたけれど。この国では、女性からお酒を誘うのは、告白に近い意味もあるのだ。

「……わかったならいい」

 反省していると、青年は、席を一つずれて、私の隣に座った。


 お酒が来るのを待つ間、青年と雑談する。

「花奏師は、酒は禁止じゃなかったか?」

「もう、やめました。……え、あれ、私が花奏師だって、お話ししましたか?」

 私が尋ねると、ふっと、青年は笑った。

「聖花の香りがあなたからする。……聖花によほど好かれていた腕のいい花奏師だったんだな」

「え!?」

 聖花に香りはないはず……。そう思いながら、自分のあたりの空気を嗅ぐ。

 変な匂いは、していない……と思う。


「ああ、俺は……特別鼻が利くんだ」

「そうなんですね」


 そんなことを話している間に、お酒とナッツがやってきた。

 興味津々で、お酒の入ったグラスを手に持つ。


「これが……お酒」

「あぁ。一気に飲まず、少しずつ飲んだ方がいい」

 青年は私のグラスに、自分のグラスを合わせると、微笑んだ。

「初めてのお酒を飲む、あなたの特別な日に、乾杯」

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