招かれて、王の間
それから私は、アオバとアカネ姫の三人でお城を歩くことになった。
カツコツ音を立てながら、石造りの城内を進んでいく。その間、すれちがう兵士さんやメイドさんはアカネ姫とアオバに笑顔であいさつしていて、ふたりもほがらかに声をかけている。愛されているなぁ。
……でも、すれちがう人たちはみんなが小走りで、落ちつかない感じ。
「メイ様。あわただしくて、申し訳ありません」
私の表情から察したみたいで、アカネ姫は困り顔で言った。
「なにかあったんですか?」
「このところ、コカゲ帝国からの攻撃が城にまで届いております。被害を出さないよう防衛体制を整えているところです」
王国の外で戦っていたはずなのに、もう敵の手がお城に届いているってこと? ぶるっと身ぶるいする。
「と言っても、外壁をこわされた程度だよ。メイを危険にさらさないように、部屋は城の一番おくにしているからね」
アオバは私を安心させるために笑って、つづける。
「それと、お城の中で最も安全な場所も案内するよ。もしものことがあったら、ここに来てほしい」
連れてきてもらったのは、お城の最上階。とびらのすぐ横には、白いヨロイの兵士さんふたりがひかえている。
「ここは、王の間。リーフェスタ王国数百年の歴史が刻まれた玉座があります」
アカネ姫の言葉を聞いて、私は固まる。それって……お城で一番重要な場所ってこと?
「そんなところに、私が入っていいの?」
「いいに決まっているよ! ボクやアカネ姉さんの部屋もこのおくにあるから、遊びに来てね」
そんな軽いノリで、行けないってば! でも、とびらを開いたアオバが目を輝かせて私を手招くから、えんりょがちに足を踏みいれる。
広々とした部屋には、もふもふのじゅうたんやピカピカの机がそろっている。天井まで届く背もたれが目を引くイス……「玉座」が置かれていた。
でも、そこに座る人がいまはいない。なぜならば……
「先代国王であるわたくしの父は、母である王妃とともに、急な病にたおれました。わたくしが3歳のとき、でした」
「…………」
私はそれを知っている。なぜなら、アニメで観ていたから。目の前のふたりには両親がいないという、設定だ。
アカネ姫は、部屋のカベに飾られた大きな写真を見あげる。……子どもをそれぞれ抱いている国王と王妃の肖像写真だ。
「わたくしは今年で16。もう10年以上、この国には国王がいないのです」
その言葉に、私の頭に「?」が浮かぶ。
「あれ? どうして、アカネ姫は国王様にならないの?」
国民みんなが尊敬していて、いつも冷静なアカネ姫だったら、だれも文句なんて言わないでしょう?
そぼくな疑問に、アカネ姫は少しうつむいた。
「……わたくしは、国王にはなれません」
「どうしてですか? 16歳だとまだ年が若いから?」
「いいえ。父は15歳のときに、国王に即位しました」
「じゃあ、アカネ姫だって……」
つづけようとした言葉を、アオバが手で制して止める。
「メイ。それ以上は……」
「いいのよ、アオバ」
アカネ姫はいつもの優しい声で言った。けど……なんだか、暗い顔をしている。
「……これより、城壁の防衛任務の視察に行きましょう。アオバ、メイ様。お付き合いいただけますか?」
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