国王のいない王国

目覚め

「……はッ」


「起きた? メイ」


 ふかふかのベッドの中で目を覚ますと、アオバの顔がすぐ近くにあった。


「あれ? 私、アカネ姫の料理を食べて、どうしたんだっけ?」


「丸一日眠っていたんだよ。食べたのはひと口だけだから、一日ですんだ。そう思えば、不幸中の幸いかな?」


 アオバは大まじめな顔で言っている。


「アカネ姉さんの料理には、王宮料理長でも敵わないからね。ボクもあの料理のせい……じゃなくて、おかげで、どんな夜戦食も食べられる様になったからね」


 アオバ! いま「せい」って言ったでしょ!


「……正直に言ってあげるのも、優しさだと思うなぁ」


「その通りだゼ、メイ!」


 リドリィは私の頭に乗って、ケラケラ笑っている。


「体の調子はどうかな、メイ? 起きられる?」


 と、アオバは私に手を差しだしてくれる。お姫様というより、王子様みたい。


 照れながら、私はアオバの手を取ってぴょんとベッドから下りる。


「平気そうなら、お城を回ろうよ。ボクが案内するから!」


 なんて、人懐っこい笑顔で言われて、断れるわけがない。用意してもらった軽装に着替えて、部屋から出る私をアオバは待ってくれていた。


「お待たせ」


「似合っているね、メイ。それじゃあ……」


「あら、メイ様? お身体の具合は、もうよろしいのですか?」


 と、声をかけられる。そちらを向くと、水色のドレスとキラキラオーラを身にまとった美人さん!


「アカネ姫!」


「おはようございます。昨日は突然お眠りになって、旅の疲れが出てしまったのでしょうか?」


 と、私を気絶させた張本人が聞いてくる。


 ルビー色の瞳を見て、確信した。これは、本気で私の心配をしている目だ……!


「なんだろ。食べた瞬間に、魂がぬけたような……」


「まぁ、メイ様もお上手ですね。天にものぼる心地だなんて」


「いや、そういう意味じゃなくって」


「自信作だったので、メイ様の喜んでいただけて、うれしいです!」


「えっと、そのぉ、あはは……」


 照れて顔を赤くして、天使のようにほほえむアカネ姫に、私はなにも言えない。


「アカネ姉さん、メイの部屋になにか用があったの?」


 アオバが空気を読んで、話題を変えてくれた。助かった……。


 アカネ姫はポンっと手をたたく。


「そうでした! メイ様にお返ししないといけないものがありました」


 と、アカネ姫が差しだしてきたのは……


「リモコン?」


 家のリビングでいつも使っている、使いふるしたなじみのリモコンだ。そういえば……テレビの中に吸いこまれたとき、持っていたような。


「メイ様の服から落ちたものを、預かっていました」


「あ、ありがとうございます」


 お礼を言って、私はリモコンを受けとった。


「アカネ姉さん。いま、お城をメイに案内しようと思っていたんだ」


「まぁ、そうでしたか。ならば、わたくしもご同行してもよいですか? ちょうど、城を巡回しようと思っていましたので」


 と、アカネ姫とアオバが話しているうしろで、私はリモコンを部屋に置いていこうと、扉に手をかけた。


「オイ! そいつは持っていった方がいいゾ!」


 その声は、私の肩の上から。リドリィが、羽でくちばしをかくして耳打ちをしてくる。


「アカネやアオバには聞かせられネェ、おまえにだけの耳寄り情報だゼ!」


「リドリィ、いきなりなに? このリモコンがどうかしたの?」


 私も小声でたずねる。


「そのリモコンは、アニメの世界に迷いこんだヤツへの、お助けアイテムってトコロだナ」


「お助けアイテムぅ?」


「オウよ。まぁ、使い方はフツーのリモコンと変わらねぇサ」


「この世界にはテレビもないのに、使うもなにもないでしょ」


「わかってネェな、メイ」


 リドリィは私の顔の前を飛びながら、ニヤニヤ笑って言った。


「ここはお前が観ていたアニメの世界だゼ? それさえあれば、お前は無敵なんだヨ!」


 無敵? もっとわかりやすく言ってほしい。


「メイ? どうかしたの?」


「あ、いや、なんでもない!」


 ごまかしてから、私はリドリィの言うとおり、リモコンをポケットにつっこんだ。

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