甘い武器
用意された部屋は、私の家の部屋を全部合わせても敵わないほど広かった。部屋の中にお風呂もキッチンもあって、どこもかしこもいい匂い。
「これでひと部屋……?」
「最上級に豪華な部屋を用意したんだ! どうかな、メイ?」
アオバは、とても楽しそうに私を案内してくれた。
「あ、ありがと」
あいまいにうなずいて、椅子に腰かける。うれしいけど……正直落ちつかない。
コンコン。
外からドアがノックされる。「ど、どうぞ!」と返事をすると、ドアの隙間からドレスが見えた。
「アカネ姫!」
「メイ様。先ほどは、大変失礼いたしました」
アカネ姫は部屋に入って早々、まゆ毛をへろっと垂らして私に謝った。
「連日の防衛任務のせいで兵は気が立っており、ご無礼をいたしました。わたくしが頭を下げても、メイ様を危険にさらした事実は変わりませんが……本当に、申し訳ありません」
「そんな! やめてください!」
私は手をブンブンふりまわす。
「王国を守ろうとしたんですよね? それが兵士さんのお仕事だし、当然のことです!」
「しかし、大切なお客様に対してあのような……」
「私は気にしていませんから! 顔をあげてください。ね? アカネ姫」
私はアカネ姫に笑いかける。
すると、アカネ姫の表情がパッと輝いた。
「メイ様は、なんとお心の広いお方でしょう! わたくし、感動してしまいます……!」
私はほっと胸をなでおろす。やっぱり、アカネ姫は笑顔が一番かわいいんだ。
「お詫びの印と言っては恐れ多いですが、こちらはいかがですか?」
アカネ姫がドアを開くと、燕尾服の執事さんが高級そうなトレイを運んできた。
「これは?」
「王国のご客人にふるまう伝統の紅茶と、王族秘伝のレシピで作ったパンケーキです」
テキパキと並べられる、ティーポットにカップ、お皿の上の……ふわふわパンケーキ!
「はずかしながら、わたくしがお茶をいれ、パンケーキをお作りしました」
「えっ」
アオバが、私のすぐ横でおどろきの声をあげた。
でも、私はテーブルの上にしか目がいかない。
「これ全部、アカネ姫の手作りですか?」
「はい。メイ様のお口に合うと良いのですが……」
私はさっそくフォークを手に取った。
「やったぁ! めちゃくちゃおいしそう!」
「メイ。待って……!」
「いただきますっ!」
アオバの声は聞こえないふりをして、私はパンケーキを一口ほおばる。
口の中に広がるのは、とろけるような幸せな甘み……じゃなくって。
「ん、ぐぅ!」
酸味に苦味、ひときわ強い辛味……!
味の大爆発が、口の中で起こっていた。
「む、ぅう……」
ふるえる手で、紅茶を一口。
「!」
おぉ、紅茶よ、おまえもか!
「メイ様? メイ様!」
意識が遠くなっていく中で、アカネ姫が私に声をかけてくる。
そのうしろで、アオバが頭をおさえて、リドリィは爆笑していた。
「ガハハ! さすがだゼ! 剣の腕以上にかくされる、アカネのもうひとつの武器!」
「……アカネ姉さんの料理は、ある意味王国最強の兵器だから……」
先に、言ってよ! とさけぶ前に、私は気を失った。
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