それから

 展望フロアに登ってきたのは、アカネ。キラキラのドレスやペンダントはいつもどおり。でも、頭にはティアラではなく、国王の証である王冠をのせている。


「アカネ!」


「メイ、会いたかったです」


 にっこり笑って、アカネは私のとなりに立つ。


「お仕事、もういいの?」


「ちょっとだけ休憩です」


「あれ? いま、会議の時間じゃなかったっけ?」


 青葉が言うと、ギク! とアカネは固まった。


「まさか、国王様がサボり?」


 私が茶化すと、アカネは人差し指をくちびるに当てて「しぃー」とウインクする。


 ……かわいい。


「王国は、戦争の前以上に活気にあふれています。いまこそ、国をまとめる国王が必要です」


「それが、アカネなんだ」


「はい」


 アカネは、私と青葉に胸をはってみせた。


 戦争を終わらせて、その日のうちにアカネは国王即位を決めた。


 反対する国民たちに、アカネは堂々とした態度で言いきったんだ


『伝統も大切ですが、変わることを恐れてはいけません。この国を歴代国王のように……いいえ! 歴代国王よりもすばらしい場所とするため、務めを果たしてみせます!』


 自信たっぷりな姿を見ると、私も鼻が高くなる。国王の友達なんて、日本じゃ私くらいじゃないかな?


「アカネだったら、大丈夫だよ。私が保証する!」


「ありがとうございます。国民全員の力を借りて、さらに豊かで緑舞う国にしてみせますわ」


 それから、アカネは意気揚々と未来のことを話してくれた。


 シロウは、コカゲ帝国をまとめる役割に就くことが決まった。「曲がりなりにも王をしていたのだから、責任を持ってはげみなさい!」という、アカネの鶴の一声があったんだ。


 連れさられていた国民たちは、無事に全員が家族のもとに帰ることができた。王国だけじゃなくって、帝国の人たちも解放されたんだ。ララちゃんたちも喜んでいるだろうな。


 いつになるかわからないけど、リーフェスタ王国とコカゲ帝国の国境をなくして、ひとつの大きな国を作る。それが、アカネの夢なんだって。


 あっ、と私は思いだす。


「そういえば、リドリィは?」


「スパイの方々といっしょに、牢屋……ではなく、トリカゴにつながれています」


 この騒動の黒幕を「鳥だから」なんて理由で特別扱いはしない。それが、アカネ流。


「リドリィさんにも国民をあざむき、混乱させた罪を、きちんと反省していただきますわ」


「そうだね。次に悪さをしたら、アカネが焼き鳥にすればいいし!」


「はい! 王族に伝わる秘伝のタレから、丹精こめて作ります!」


 私とアカネは、ふっふっふ……と、ちょっぴりダークに笑いあう。「せめて、料理長の手でうまくしロ!」というしゃがれたさけび声が、お城のどこかから聞こえた気がした。


「……これからどうなるのかはわかりませんが、まちがいなく言えることがあります」


 アカネは、青葉の手を取った。


「アオバ。もう、あなたはキューターリーフにならなくていい。戦いに身を投じて、自らを危険にさらす必要はないのです」


「アカネ姉さん……」


「あなたの未来は、これから無限に広がっています!」


 青葉に語りかけるアカネは、心の底から楽しそうだ。


「もしもアオバが望むのなら、武者修行に行ってもいいです! そうして多くを学び、いずれは王国を代表する剣士として、みなさんをまとめあげてくれたら……!」


「アカネ姉さん。聞いてほしいことがあるんだ」


 青葉は、きっぱりと言う。


 アカネの手をほどいて、私とならぶ。


「ぼくには、帰らなきゃいけない場所がある。と、いっしょに」


 それから。


 私と青葉は、アカネにすべて話した。


 自分たちがこの世界の住民じゃないこと。青葉が私の探していた弟であること。


 そして、私と青葉はアニメの世界から帰らなければいけないことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る