きょうだいゲンカの結末

「これで……よし!」


「チ〜、ク〜、ショ〜!」


 と、くやしがっているリドリィの片足を、縄でしばっておく。


 空から降りてきた私の周りでは、兵士たちがぽかんとしたまま立っている。


 そんな空気を変えるのは、青葉。すぅ……と、大きく息を吸いこんでから、声をはりあげる。


「争いをやめろ! リーフェスタ王国も、コカゲ帝国も、これ以上の戦いに意味はない!」


 キューターリーフの言葉に、またもざわつく兵士たち。特にリーフェスタ王国の人々は声を荒げる。


「しかし、アカネ姫はコカゲ帝国のせいで……!」

「そうだ、そうだ!」

「仇をうつことを、許してくれないのですか!」


 四方八方から声を浴びせられても、青葉は冷静だ。


「その憎しみも、黒幕が仕組んだものだ。怒りに任せて力を振るうなんて、悲しいことはやめてほしい」


「しかし……」


「それに、仇なんてうつ必要はない」


 青葉が、私に目配せをしてくる。私は、こくっとうなずいた。


 私は、たおれたままのアカネのそばにかけよる。すぐそばにはシロウが膝をついて、アカネに声をかけつづけていた。


「姉さん、姉さん……」


「シロウ。下がって」


「イヤだ。オレはまだ、姉さんに謝っていないのに……」


「わかっている。私だってこんなさよならは、ぜったいにいや」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにするシロウと、まっすぐ目を合わせた。


「私に任せて。いま、アカネを助けるから」


 私は、右手でリモコンをアカネに向け、力いっぱいボタンを押す!


「【世界逆行バック】!」


 アカネは光に包まれる。時間よ、もどれ……!


 背中から矢が消えて、服の汚れもきれいさっぱりなくなった。あとは、アカネが目覚めるだけ。


 空いている左手で、アカネと手をつなぐ。


 ……ぴく。小さな力で、握りかえされる。


「アカネ!」


 私の声に反応して、アカネはゆっくり目を開けた。


「ん、ぅ……」


 アカネは起きると、のんきに目をこすって、きょろきょろと辺りを見まわし……こてんと首をかしげた。


「えっと……わたくし、なにをしていましたっけ?」


「アカネっ!」


「きゃあ!」


 私は、アカネに抱きついた。


「め、メイ? 突然こんな、はしたないです……」


 キョトンとしているアカネが……友達が、ここにいる。とてもとても、あたたかい……!


「姉さん!」


 ふるえた涙声は、シロウのもの。


「シロウ!」


 アカネは私からはなれると、シロウに向かって走っていく。ここでもやっと、きょうだいの感動の再会が……


 と、思ったのに、アカネはシロウのほっぺを両手でつまんで、ぐいーっ! と、横にひっぱった。


「いてててっ! ね、ねぇひゃん?」


「シロウ! 3年間もなにをしていたのですかっ! これまでの悪逆、狼藉の数々、姉さんは許しません!」


「さ、さっき、許せるから家族だって……」


「それはアオバへの言葉について、です! 王国を放りだしたこと、戦争を始めたこと、なにより……剣の腕が落ちたこと! お説教することは山ほどあります! 覚悟しなさいっ!」


「は、はい……」


 ツノでも生やしてしまいそうなアカネのけんまくに、シロウはちぢこまってうなずくしかできない。


 これのどこが、悪の帝王なの? 私は、涙が出るほど笑った。


「これでもう、戦う理由はない」


 青葉が声高らかに言い、縄につながれたままのリドリィを、ちらっと見る。


「先ほど聞いてもらった通り、これまでの戦争の元凶は、人の心をもてあそぶこの鳥だった」


 青葉はアカネとシロウ、最後に私を見て、手をのばしてくる。


 私は真っ先に青葉の手を取る。


「ほら、アカネも!」


「……はい!」


 反対の手をアカネがにぎって、反対側はシロウの手をつかんではなさない。


 リーフェスタ王国の王族と、コカゲ帝国の帝王が、手を取りあって国民の前に立つ。


 青葉は、国中に聞こえるほどの声で言った。


「リーフェスタ王国とコカゲ帝国の戦争を、終結する! 両国、協力して生きていくことをここに誓う!」

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