待っていたよ

 言葉より先に、私は青葉の胸に飛びこんでいた。


「会いたかった、青葉……!」


「ぼくも、ずっと待っていたよ」


 青葉が私を受けとめる。ぎゅう、と、力いっぱい抱きしめてくれた。


「ごめんね、ごめんね! 私、青葉にひどいこと言った!」


「うん。すごくショックだったよ」


「それに、あなたの名前も顔も、覚えていられなかった」


「ひどいなぁ」


「でも! 信じていた!」


 私は、きっぱりと言いきる。


「私には弟がいる! だれにも信じてもらえなくたって、信じつづけた!」


「うん。芽衣姉ちゃんがぼくを想ってくれたから、こうしてまた会えたんだ」


 青葉は、くちびるをかんでいた。私とおんなじ、涙をこらえるときの顔。


 だから私は、笑った。


 がまんしている弟の前では泣かないのが、お姉ちゃんだから。


「……ヤメロ、ヤメロ! くっだらネェ!」


 なんてわめくのは、リドリィ。私たちの間を、横切ってくる。


「アオバ! こんなお涙チョーダイを見たくて、オマエをアニメの世界に連れさったんじゃネェんだヨ!」


 ……連れさった?


「ねぇ、リドリィ」


 ふるえる声のまま、私はリドリィにたずねる。


「六年前、あなたが私たち家族から、青葉を奪ったの?」


「それが、なんダ? 言っただロ、オレ様はリドリィ! 海も世界も自由に飛びかう、いっちゃんイカした渡り鳥だゼ!」


 無意識のうちに、私は歯を食いしばっている。


 ケヒャヒャ! と、リドリィは笑った。


「ヨチヨチ歩きの青葉をテレビの中におびき寄せるなんて、朝エサ前だってノ!」


 ぐるぐると、血が体じゅうをめぐっている。


 ……体が熱されるような怒り、なんて、人生で初めてだ。


 青葉は私を背中にかくして、リドリィに問いかける。


「君がすべての黒幕だったんだね。リドリィ」


「アァそうサ! 平和なんてタイクツな世界、オレ様はダイキライッ!」


 あっさり認めて、リドリィは甲高い声で続ける。


「青葉。現実世界にいたオマエを、王国の城の前まで呼びよせタ! シロウがオマエを目の敵にするように、カゲ口を広めタ! そして、敵を差しむけタ! 王国も帝国も、全部をぐっちゃぐちゃにしたのが、オレ様ダ!」


 なに、それ。


 じゃあ、青葉が私たちの世界からいなくなったことも、リドリィの仕業?


 シロウと青葉がケンカする原因を作ったのも、国同士を戦わせたのも?


 その理由が……たいくつな世界がきらいだから?


 前に出ようとする私を、青葉が止める。


 そして、リドリィに向かっておだやかに言った。


「そっか。ありがとう」

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