会いたかった

 手首をつかまれる。


 私の指は、ボタンの上でとまった。


「あ、れ?」


 そのとき、世界は止まっていた。


 戦う兵士たちも、さけぶシロウも、みんながぴったり停止している。


 これは……【世界停止ストップ】を使ったときとおんなじだ。


 でも、私はボタンを押していない。


 どうして?


 その答えは、すぐとなりにあった。


「なんで、あなたが……」


 私は、手首をつかんできた人物の名前を呼ぶ。


「……アオバ」


 アオバは私を安心させるため、笑った。

 と、いうことは、アオバも停止していない。


 なにより……アオバの手には、リモコンがにぎられている。


「リモコンが、ふたつ?」


 どうなっているの? キューターリーフ……アオバが、世界を止めた?


「……ボクは、ずっと使い方がわからなかったんだ。でも、メイが見せてくれたから」

「……?」


 おちついて状況を整理したいのに、バサバサ! と、耳ざわりな羽の音がする。


「世界を止めるんじゃネェ! アッチコッチで戦いが始まって、やっと盛りあがってきたのにヨ!」


 私の肩にとまっていたリドリィも、やかましく動いている。


 リドリィが、アオバの長いポニーテールを足でつかんで、乱暴にひっぱった。


 アオバは落ちていた剣を拾って、頭のうしろに回す。そして……


 ジャキッ!


 迷うことなく、アオバは根元から髪を断ちきった。


 つややかな髪が風に乗って飛んでいく。


 ショートヘアーになったアオバは、私にこう言った。


「こうしないと、わからないかな? ……芽衣姉ちゃん」


 芽衣姉ちゃん。


 そう呼ばれた瞬間、忘れていた過去が私の頭の中になだれこむ。


 この子は、いつも私の服をつかんでいた。家族みんなが仕事でいそがしいとき、この子といっしょにアニメを観ていた。

 女の子の服を着て笑いかけてくれた、世界で一番キュートな子。


 甘えん坊で、目に入れても痛くない、私の自慢の、弟……!


 目の前の人物は、アニメの中のキャラクターじゃない。


「……あーちゃん……」


「うん」


 アオバが、答えてくれた。


「ぼくの本当の名前は、亜仁間あにま青葉あおば。君の弟だよ、芽衣姉ちゃん」

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