メイク・アニメ

泣いて下を向くか、涙をぬぐって前を向くか

「私の両親……この国の国王と王妃が、急な病でたおれたことは、以前お話ししたとおりです。そして私は、今年で16歳。アオバは……11歳、です」

「……あれ？」

　思わず声を上げてしまった。だって、おかしい。

　アカネ姫が3歳のときに、両親がなくなってしまった。それなのに、きょうだいのアカネ姫とアオバは、5つも歳がはなれている。

　アオバが生まれたとき、国王様と王妃様はもういない……？

「6年前の夕方のことです」

　私が困惑していることに気づいて、アカネ姫は話を続ける。

「幼な子が城門の前で指をくわえて眠っている、と、城内が大さわぎになりました。まるで空から降ってきたかのように、突然現れた不思議な子ども。それが、アオバ」

　アカネ姫はなつかしそうに天井を見あげて、ひとつ深呼吸をした。

「わたくしとアオバに、血のつながりはありません。アオバは……捨て子だったのです」

　衝撃の事実に、言葉を失う。アオバはこの国の王族じゃない……？

「王国中を調べても親族の情報がまったくなく、この世界で天涯孤独だったアオバを、わたくしのきょうだいとしてむかえました。ただ……お城に来たばかりのアオバは、毎日のように泣いていました」

「えっ？」

　あのキューターリーフが、毎日泣いていた？　そんなシーンは、アニメで観ていない。

「自分はいらないんだ。家族に捨てられた。ボクなんて、ボクなんて……と、うしろ向きなことを言ってばかりの子でしたよ」

「そう、だったんだ」

　私には、あのかっこいいアオバが膝を抱えている姿なんて、想像できない。

「だからわたくしは、アオバに剣を渡しました」

　アカネ姫がアオバに剣をたくしたシーンは、確かに観た。そのときのセリフはとても印象的だから覚えている。

『剣の強さに、生まれも育ちも関係ありません。泣いて下を向くか、涙をぬぐって前を向くか。選ぶのはあなたです』

「慣れない環境で苦しむアオバに、とても厳しいことを言ってしまいましたが……剣を手にしてから、あの子は変わりました」

　アカネ姫は、自分の髪の毛をくるくるっと指に巻きつける。

「アオバは天才です。わたくしは、あっという間に追いこされてしまいました」

「アカネ姫は、アオバの師匠なのに？」

「わたくしが十年かけて身につけた剣を、アオバはその半分でカンペキに覚えたのです。いまや、だれもが認める可憐な剣士……キューターリーフ。わたくしの自慢の弟子ですわ」

　ぎこちなく笑うアカネ姫に、私はたずねる。

「アカネ姫は、キューターになりたかったの？」