だれより可憐で、だれより強く
「え?」
「だって、アカネ姫の顔が、とてもくやしそうに見えたから」
「……くやしい、ですか」
アカネ姫が、小さくうなずく。
「そうですね、くやしいです。……アオバにすべてを押しつけた、私の弱さが」
それから、アカネ姫は王国のウラ側について話してくれた。
「リーフェスタ王国には『国王は男の人でなければいけない』という決まりがあります。女の人は、国の大事な仕事を任せてもらえません」
「才能のある女性がいたら、どうするんですか? アカネ姫みたいな」
「王族でも認められません。それがリーフェスタ王国、数百年の伝統なのです」
「おかしいし、そんなの!」
私は眉毛をつりあげる。
「私も、そう思います。だから、立ちあがらねばいけなかった。私が必死に剣の腕を磨き、兵士に負けない力をつけたのも、それが理由です」
「……あれ? でも、アカネ姫の剣のことは秘密だって……」
私は、初めてお城に来た時のことを思いだす。
うっかりアニメで観た知識を語った私に、兵士さんたちはあわてていた。アカネ姫の強さがバレることを、かくしていた。
しばらくだまっていたアカネ姫は、ちょっとだけ怒った声で言う。
「王女に必要なのは、剣の腕ではなく作法と教養。王女とは、そういうもの、なので」
「なに、それ……」
「『王族で、女性だから、手をぬいてもらえた』と、わたくしの努力は否定されました。ついには『王女に負ける兵隊などと知られたら困る』と、剣を取りあげられました」
「ひどい!」
生まれとか、女の子だからとか、そんなことを理由に努力をなかったことにするなんて!
「そんな王国のあり方を変えるための切り札が、キューターリーフです」
「切り札?」
「だれより可憐で、だれより強く、王国のために戦う存在。国を思う姿に、男女のちがいなんて関係ないはずですから」
うんうん、と、私はめいっぱい首をたてにふる。
じゃあ、本当はアカネ姫がキューターリーフになるはずだったんだ。
それはそれで、観てみたい……。
「ただ、剣を持って戦場に向かう私を止めたのが、アオバでした」
「…………」
「『アカネ姉さんの気持ちは、ボクの中にもある。ボクに、姉さんの思いを乗せてほしい』。アオバは、そう言ってくれました」
つまりアオバは、アカネ姫を守るために、変身することを選んだってことだ。
「アオバらしい」
私が言うと、アカネ姫は「そうなんです」と、声を弾ませた。
「もう、泣いてばかりのアオバはいません。優しく、たくましい子に育ってくれました」
アカネ姫はとてもほこらしげに、でもちょっとだけさみしそうに笑っていた。
「それって、絶対にアカネ姫のおかげです。強く、優しく、美しい! アカネ姫は、理想のお姉さんですし」
「そんな、はずかしいですわ……」
「私のお姉ちゃんも、アカネ姫を見ならってほしいし……」
「あら、メイ様にもお姉様が?」
私の軽口に、アカネ姫が食いついてくれたから、私は現実世界を「遠い国の故郷」ということにして、家族や学校のことを話した。
テレビやスマホの話に、アカネ姫は「おとぎ話のようです!」なんて目を輝かせていた。
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