優しくしないで

 星も月も見えない、夜。


 私は、アオバの部屋の前で座りこんでいた。


「メイ様」


 呼ばれて、のろのろと顔を上げる。ひらひらレースのネグリジェに身を包んだアカネ姫が、ランプを片手に立っていた。


「いま、アオバのキズの治療が完了しました。安静は必要ですが、命に別状はありません。明日には目覚めてくれると思います。……ですから」


 アカネ姫が目線を合わせるために、私の前にしゃがむ。


「どうか、メイ様もお休みになってください」


 私は首を横にふる。


「キューターリーフが……アオバが目覚めるまで、休まない」


 私のせいで、アオバが大けがをしたんだ。私がぬくぬくと休むなんて、できるわけない。


「気に病まないでください、メイ様。アオバは強い子です」


 アカネ姫はやわらかい声で言ってくれる。


「メイ様のせいでは、ありませんよ」


「見てもないのに、てきとうなこと言わないでください」


 とうとう、私はアカネ姫にもトゲトゲした言葉をぶつけてしまった。


 もう、最悪だ。私……。


 なのに、アカネ姫はそっと私の肩に手を置く。


「メイ様まで体調を崩されてしまうと、私はアオバに顔向けができません。どうか……」


「どうでもいいし! 私のことなんて!」


 アカネ姫の手をはらって、私は大声で言う。


「私がアオバとの約束を守らなかった! 調子に乗って帝王を怒らせた! 私なんかのせいで、アオバが、アオバが……!」


 なにが、キューターリーフといっしょに戦う、だ。


 役に立つどころか、足を引っぱって、ケガまでさせた。


 こんな私に、優しくしないでほしい。文句を言ってほしい。怒ってほしい。


 全部、全部私が悪いんだから……!


「めッ、ですよ。メイ様」


 チョン、と、鼻の頭をつつかれる。アカネ姫が、私を正面から見つめる。


「自分のことを『どうでもいい』や『私なんか』と言ってはいけません。メイ様が、メイ様をきらいになってしまうのは、とてもとても悲しいことです」


「でも!」


「でもじゃ、ありません」


 アカネ姫はピシャっと言ってから、私とおでこを合わせる。


「自分を大切にできない者が、他人を大切にできるはずがありません」


「…………」


「アオバに何度も言いきかせてきたことです。……アオバとメイ様は、似ています」


「似てないです。あんなにかっこよくないし、強くもない」


 泣いてしまいそうだったから、私はぎゅっとくちびるをかむ。


「ふふっ」


 なぜか、アカネ姫は笑った。


「そっくりですよ、メイ様。涙をこらえるとき、アオバもそうやってくちびるをかむんです」


「う……」


 私はなんだか恥ずかしくて、目をそらす。


 アカネ姫は、私のとなりにちょこんと座った。お姫様が床に座るなんていいのかな?


「昔話をしてもいいですか?」


 と、アカネ姫は言った。私は、コクっとうなずく。

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