任務、失敗

 ゆらり……と、帝王はゆっくりふりかえる。


 その間に、私はもう帝王の目の前にいる。


 不気味な仮面に手をのばす!


 飛びこんだ私を……帝王はひらりとかわした。


「え……?」


 私は、転がってカベにぶつかった。

 

 なにが起きたのか、わからない。


「な、なんで? 今の私、フツーの人じゃ見えないくらいの速さなのに?」


 頭が真っ白になった瞬間、帝王が私の手首をつかんだ。


「いっ……!」


「たしかに速い。だが、それだけだ」


 帝王はくぐもった声で言った。


 ぶわ。


 全身から、汗がふきでる。


 帝王には、何倍も速い私の動きが……見えている?


 ふ。と、仮面の下で帝王が笑う声がした。


 帝王は私をぽいっと放りなげる。床にたおれて、そのはずみでにぎっていたリモコンもはなしてしまった。


「リモコンが!」


 あわててかけだす私の目の前に……。


 ズン!


「ひッ!」


 ギラギラと光る剣が突きささる。


 その剣をにぎる帝王が、私の前に立っている。


 恐怖で声が出ない。息もできない。


 情けなくへたりこむ私に、帝王は剣をふりあげる……!


 優しい風が、私のほおをなでていく。


 ガキンッ!


 帝王の剣を受けとめたのは、可憐な剣士。茶色のポニーテールとフリルたっぷりな緑のスカートをゆらしている。


 エメラルドの瞳は、私を見てキランと輝く。


「疾風に舞う木の葉に乗って、さっそう参上! キューターリーフ!」

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