無敵のリモコン! の、はずなのに!

帝王……見つけた

 お城の中に入っても、だれも私を止められない!


 兵士たちが集まってくると、私はリモコンを自分に向ける。


「【世界倍速スピード】!」


 目にもとまらぬ速さで、私は兵士を置きざりにする。


 道をふさがれても、大丈夫。


「【世界停止ストップ】!」


 私以外の全員を止めてから、兵士たちをどかしてしまえばいい。


「これさえあれば、本当に無敵じゃん!」


 ぐるぐると上までのびる階段を、私は上機嫌でかけあがっていく。ついてこられるのは、リドリィだけ。


「気分がいいナ、メイ!」


 私は大きくうなずいた。


「リモコンさえあれば、私もキューターリーフに負けないんじゃない?」


「それは知らネェけどヨ。ま、ヨッポドのことがなけりゃ万能だ」


 リドリィは私の肩に止まる。


「しかし、メイもモノ好きだナ。とっととにげて、現実の世界に帰りゃいいのにヨ」


「帰る方法なんて、私聞いていないけど?」


「言ってなかったカ? リモコンの【世界逆行バック】を使えば、イッパツだゼ」


 リドリィが爪を乗せたのは、左向きの三角がふたつならんでいるボタン。


「光を当てたものの時間をもどすカラ、こいつを自分に向けレバ、アニメに引きずりこまれる前にもどるンダ!」


 へぇ。だったら、この世界から帰ろうと思えば、いつでも帰れるってことか……。


「帰らないよ」


 私はリドリィに、きっぱりと言った。


「まだ弟を見つけてないし、この世界の問題も解決したい」


 あーちゃんを見つけて、連れもどすことも大事。でも、アオバやアカネ姫、ララちゃんたちも困っている。知らんぷりで見すごすなんて、できない。


 それに、大きな理由がもうひとつ。


 私の心の中に、幼い夢がよみがえっている。


 キューターは、私がテレビの前から声をあげて応援していた、最高のヒーロー。


 いつか、キューターのように戦いたい。小さいころのありえない空想が、アニメの世界なら叶うんだ!


「キューターといっしょに戦う経験なんて、一生に一度のことだもん!」


「……ケケケッ、そのイキだ! おもしろくなってきたナ、メイ!」


「それに、もしケガしたり失敗したりしても、【世界逆行バック】でその前までもどっちゃえばいいんだもん!」


「オット。それはちがうゼ?」


 ビシ、とリドリィは羽を私に向けてくる。


「【世界逆行バック】が使えるのは、一度きりダ」


 階段の途中で、私は立ちどまる。


「一度きり? どうして?」


「時間の流れは一方方向ってことには、ゼッタイさからえない。これは現実もアニメもおんなじサ。その流れを速くしたり一瞬止めたりってノと、時間をもどすってノはワケがちがう」


「ふぅん。時間へのルール違反みたいなこと?」


「そうだナ。一度だけでもありがたいと思えヨ」


「なんでリドリィがえらそうなの」


 べ、と舌を出してやった。


「じゃあ【世界逆行バック】は、アニメの世界から現実世界に帰るときまで使わなければいいんだね。オッケー」


 そして階段を上がりきり、私の前にはとびらがひとつ。


 お城の最上階。ここがコカゲ帝国、悪の帝王の部屋だ。


 ギ、ギィ……。


 すき間から、中をのぞく。真っ暗で不気味な部屋の、窓の前……


「……いた」


 マントを着た男が立っている。あれが、悪の帝王!


 背は、私よりちょっと大きいくらい。帝王、なんていうから山のような大男を想像していたけど、拍子ぬけだ。


 こちらに背中を向けているせいで、やっぱり顔はわからない。


 でも、ただならぬオーラがひしひしと伝わってきて、私はつばを飲みこんだ。


「……【世界倍速スピード】」


 私は自分にリモコンの光を当てる。これで、私を止められる人はいない。


「帝王、正体を現しなさいっ!」


 力強くさけんで、私は部屋に飛びこんだ。

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