あなたが私を呼んだとき。
『可憐剣士! キューティエイター!』
タイトルコールに、不覚にもわくわくしてしまう。ソファに深く座って、コーラを一口。
物語の舞台は、リーフェスタ王国。双葉の芽から生える剣の紋章が目印の、緑豊かな美しい国。
国の中心にドンと構えるお城には、対照的なふたりのお姫様が住んでいる。
ひとりはアカネ姫。きらびやかなドレスがだれより似合う、第一王女。
おだやかで落ちつきのある、花のような美しさの持ち主。だけど、実は剣の腕前も王国一というギャップもある。
その優しさから国民全員に慕われるアカネ姫は、いま見ても魅力的なキャラクターだ。うちのお姉ちゃんも、アカネ姫を見習ってほしい。
もうひとりは、アオバ姫。腰まで届くポニーテールの茶髪とエメラルドグリーンの瞳が特徴的な、第二王女。
いつも明るく元気いっぱい、自分のことを「ボク」と呼ぶアオバ姫。負けずぎらいな一面もあって、お姉さんであるアカネ姫の一番弟子として剣術の腕をみがいている。
「このふたりの、どっちが変身するんだっけ?」
うろ覚えなストーリーを復習しながら、私はポップコーンをひとつ、口に放りこむ。
ふたりのお姫様を中心に、笑顔の絶えないリーフェスタ王国。……だが、となりのコカゲ帝国から魔の手がのびる。
王国の侵略をたくらむのは、悪の帝王。
帝王の命令で攻めてくるコカゲ帝国の兵士たちは、王国の草木や花をふみあらす。
『この国を守りたい!』
強く願い、不思議な力を宿す剣をかかげるのは……アオバ姫。
アオバ姫は画面の中で、声高らかにさけぶ。
『疾風に舞う木の葉に乗って、さっそう参上! キューターリーフ!』
すると剣から力があふれ、体が光に包まれて変身する。
ピカピカのヨロイと、フワフワのスカートに身を包み、キューターリーフはばったばったと敵をたおしていく……!
「これって……」
ここまで観て、私はガタガタとふるえていた。
面白いから? 冗談じゃない。
「あのとき……あーちゃんが、いなくなったときに観ていたアニメだ」
頭の中によみがえってくるのは、6年前の光景。
私のサイテーなひと言のせいで、弟がこのアニメの中に入って、この世界からいなくなってしまったんだ。
「もう、やだ」
私は、頭を抱える。
「こんなの、観たくない。アニメなんて、観たくないっ!」
耐えられなくなって、リモコンをつかむ。もう止めてしまおうとした瞬間、テレビの中のキューターリーフがこちらに顔を向ける。
『ボクには、君の力が必要なんだ!』
アニメの中から、観ている子どもたちに助けを求めるキューターリーフ。みんなの声援を力に変えて、キューターは立ち上がる。
……はず、なのに。
キューターリーフは、続けてこう言った。
『メイ、助けてっ!』
「……え?」
私はリモコンを持ったまま、固まってしまう。
いま、私が名前を呼ばれたの?
おそるおそる、顔を上げる。
エメラルドグリーンの瞳は、まっすぐ私を見ていた。
「…………」
ありえない。
意味がわからない。
こんなこと、起こるわけない!
それでも私は、おそるおそる画面に手をのばす。
どぷ。
「!」
テレビの中に、指が入る。夢でもマジックでもない……!
とっさに手をひっこぬこうとした、瞬間。
強く、手首をつかまれる。
画面の中で、キューターリーフが勝ち気な顔で笑っていた。
「う」
ぐい! と、引っぱられたのが、私が現実世界にいた最後。
「わぁああああっ!」
私は、アニメの世界に引きずりこまれてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます