可憐剣士キューティエイター!
日曜日、朝、ひとり
「で。今日も今日とて、みーんなアニメのお仕事ね」
朝食後、家には私だけしかいない。友達は家族でおでかけしているらしいけど、ウチはそうもいかない。
アニメを作る仕事は、忙しいと土日も祝日も関係ないらしい。
さらに、ここ数日はシュラバ? とかで、お父さんとお母さんは一日中スタジオにこもりきり。お姉ちゃんも、収録だって早くに出かけていった。
「そのおかげで、お休みの日にだらだらしていてもだれにも怒られないから、いいけど」
ソファにダイブして、テレビをつける。アニメがやっていたらすぐチャンネルを変えて、他におもしろい番組もやっていない。
ゲームでもしようかな、と、テレビ台の棚を開ける。
カシャ……。
ケースに入った一枚のディスクが、私の前に転がってきた。
「これ……」
『可憐剣士キューティエイター 緑舞う王国の守り人 キューターリーフ』
お父さんたちがご飯のときにさわいでいた『キューター』のDVDだ。
私は口をへの字に曲げる。どうせお父さんが「新作の参考に!」とか言って、棚の奥から引っぱりだしたにちがいない。
……そりゃ、昔は新作が出るたびにグッズやおもちゃをねだっていた。変身ポーズも決めゼリフも、カンペキにマスターしていた。
でも、こんなシリーズあったっけ?
昔はあんなに好きだったのに、忘れてしまったのだろうか? いつも、あーちゃんと観ていたはずなのに。
「……覚えていなくても、当然か。あーちゃんのことすら、忘れているくせに」
私は自分に悪口を言う。
アニメの世界に入っていったあーちゃんは、初めからこの世界に存在していないことになっていた。
家族写真からも、みんなの記憶の中からも、きれいさっぱり消えてしまった。
唯一覚えている私も、いまでは顔も声もぼんやりとしか思いだせない。覚えているのは、私が弟を「あーちゃん」と呼んでいたことだけ。
「そんなお姉ちゃん、いるわけない。本当、最低……」
どんどん心が暗くなる。後ろ向きな感情に、体が重たくなっていく気分。
昔は、こんな時こそアニメを観ていた。
アニメの中のキャラクターたちは、私が悲しい気持ちでも、落ちこんでいても、いつでも変わらず笑顔でいてくれた。
いつでも前向きで、まっすぐな姿に、昔の私はたしかにあこがれていた。
「…………」
気づくと、私はディスクをテレビに飲みこませていた。
キッチンからコーラとポップコーンを手にもどってくると、ちょうど軽快なメロディのオープニングが始まった。
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