頭からアニメにつっこんだ!


 *


「……ぁぁあああああっ!」


 ぼふ!


 私が顔からつっこんだのは、草原。ふかふかで、いい香りがする。


「い、たぁ……」


 鼻をさすりながら、私はむくっと体を起こす。


「ここ、どこぉ?」


 座ったまま、きょろきょろと見わたしてみる。


 そこかしこからもうもうとケムリが立ちこめていて、周りがまったく見えない。さらに、あちこちで大声が飛びかっている。


「ほこりっぽいし、うるさいし! もう、最悪!」


 と、立ちあがった瞬間。


 ズドンッ!


 足元に、一本の矢が突きささる。


「……うぇ?」


 矢?


 ドラマの撮影? その小道具?


 そんなわけない。


 だいたい、私はさっきまでテレビの前にいたはずなのに……。


 ひとつ大きな風がふくと、視界が晴れる。


 目の前には、現実だなんて思えない光景。


 ヨロイ姿の兵士たちが怒号を上げて、戦っている。


 剣がぶつかり合う金属音と、地面をふみならす足音。さわれる場所、すべてが戦場だった。


「な、なにこれ……」


 だって、ありえない。


 さっきまで、私はコーラとポップコーンをおともに、アニメを観ていただけなのに。


 真っ白のヨロイを着こむ兵士たちが、前を、横を、うしろをかけぬける。


 ヨロイに刻まれた紋章が、目に飛びこんでくる。


「双葉の芽から、生える剣……」


 ついさっきまで画面に映っていた、リーフェスタ王国の紋章。


 と、いうことは。


「ここって本当に、アニメの中ってことっ?」


 私は空に向かってさけんだ。


 周りの兵士たちが、止まった。なんだこいつは、って感じで。


 それも一瞬だけで、すぐに戦いに向かっていく。私は、その真ん中にいる。


 一言で言えば……絶体絶命!


「や、ヤダヤダ! こんなところで死にたくない!」


 でも、にげ場なんてどこにもない!


「アニメで観ているだけだと、こんな感じじゃないのにぃ!」


 泣き言を言った瞬間、私は石につまずいて派手に転んだ。がっしゃん! と、体ごと黒いヨロイにぶつかってしまう。


 これもアニメで観た。黒のヨロイは、自然をふみにじる悪のコカゲ帝国の兵士!


「なにものだっ!」


 黒ヨロイの兵士は剣をふりあげる。


「ひッ!」


 首を引っこめて、目をぎゅっとつむる。


「……ごめんね。おそくなっちゃった」

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