第8話
「なぁなぁ、さっきの授業難しくなかったか?オレ、最後にやった…微分積分学の基本定理?とかマジで意味不明過ぎて脳内ユニバースだったんだけど」
上体を
「脳内ユニバースの方が意味わかんねぇよ…。まぁ、初見だと難しかったとは思うが、最終的に言いたいことやそれに必要な式の形が見えていたり、その前の誘導に乗っかっていたりすればできる内容だとは思うぞ」
「えー?タツは数学出来るからそうかもしれないけどさー、オレみたいなやつにはマジちんぷんかんだわー」
「…まぁ、先にある程度計算ができるようになってから理論を勉強したらいいんじゃないか。部活でも、座学で戦略とか連携の取り方を学ぶより先に実習で小さめの試合もどきみたいなのとかをするだろ?」
「お、たしかに。ひとまず計算演習頑張るわー」
そう言うと利根川はスマホに何やらメモをしたのちに数学のプリントやらノートやらを片付け、何やら周囲を
「そうそう。話は変わるけど、タツって好きな人とか彼女とかっているのか?」
「……いねぇよ。どっちも」
「うっわ何その間。絶対いるやつじゃん気になるわ~」
「思考がフリーズしただけだ。特に何かあるわけじゃない。で、なんでそんなこと聞いたんだ?」
実際好きな人はいるがなんとなく話すと面倒になりそうな気がして嘘を吐き、話を逸らした。俺が問うと、利根川は周囲に目を遣り、椅子を俺の方に寄せて小声気味に告げた。
「実はオレ、莉子ちゃんのこと好きなんだわ〜。お前よく莉子ちゃんと話してるじゃん?次のロングホームルームで校外学習の班決めをするときに一緒の班にしてほしいんよ~。」
「はぁ…。」
莉子ちゃん、というのは
そんな彼女だが、容姿が端麗なのはもちろん、スタイルもいい。特に胸部はクラス、いや、学年でみても大きな方で風の噂によるとファンクラブがあるとかなんとか…。そして、利根川も彼女の虜に。まてよ、もしかして—
「利根川が髪を青く染めたのってそれもあるのか?」
「お、そうそう。良く分かったな。」
「まぁな」
1年に集会だったり廊下ですれ違ったりしたとき、彼の髪の色は大抵赤色だったりオレンジだったりとおおむね暖色系だった。しかし、今年度になってから彼は青色に染めているらしい。万が一ぐらいにしか思っていなかったが、まさか本当にそうだったとは。
「なんか?ネットで見たんだけど好きな子の真似とかしてみるといいって書いててさ~」
「あー、ミラーリング効果ってやつかな」
「そうそれ!タツマジ博識で尊敬だわ~。それでー…『キーンコーンカーンコーン』やっべ、仕事しなきゃだわ~」
彼の発言を授業開始のチャイムが遮ると、彼はあわただしく教壇に上った。
そういえば、あいつ級長だったな。
***
班決めはあっさりと終わった。新学期とはいえ大抵は昨年度同じクラスだったり部活で仲がいいやつだったりで固まっていたためである。で、気になるうちの班員はというと—
「物井巽、戸崎勇祐、北袖莉子、
俺含む班員のみんなが彼に首肯する。戸崎と牛久さんについてざっくり解説すると、戸崎は昨年からの友人で、俺の思い人である水銀麗華の彼氏である。あー、脳が破壊されるー。
そして牛久さんは莉子の友人らしい。莉子と同じ内部進学生ということで仲がいいのだろう。あと、彼女は頭がいいらしい。多分数学学年2位だ。自己紹介をしたときに「物井?物井、物井…あー!数学学年1位の人ね!見てなさい!今年こそはアタシがアンタを負かして1位を取ってやるんだから!」と言われたので多分合っている。ちなみに彼女には「今年の数学はクラス1位も取れないだろうけどね」と返しておいた。嫌われていないことを祈ろう。
「えー、各班の班長はそれぞれの班のメンバーを後でオレのもとに送ってくださーい。今日はひとまず全体としてはここで解散とします。一応ホームルームの時間はまだ20分ほど残っていますので早めに行程立てたい班なんかは集まって土日にどうするかーとか決めておくのもいいと思います。」
全体に向けて言ったのち、「じゃ、皆土日中に行きたい場所とか決めといてね」と班に向けて利根川が告げた。カバンを背負い、教室を出て奏たちのクラスを覗いてみたが、まだ終わっていないようだった。『先に帰る』と奏にメッセージを送り、一人帰路に就いた。
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